ミンウは目を疑った。
いついかなるときも冷静さを欠かないと自負していたが、それもこの程度かと心中で嘆いてしまうほどには動揺していた。
何せ、二度見した。
錯覚か勘違いか幻覚だと思い更にもう一度見直してみたが、何だか見覚えのあるその服装に変化はない。

ミンウは諦めて、傍に寄った。


「……何をしてるんだ、あなたは」


ぴくり、と尖ったブーツの爪先が動く。
どうやら意識はあるようだ。


「息はできているのかい?」


肯定を指すように膝がぱたりと折れる。
ひとまず、安堵する。

彼にこんな死に際は許されない。否、自分が許さない。
人々を苦しめた事実を、その罪を認めさせる。
そのためには、反乱軍の義士に倒されなければならないのだ。

ミンウは大きく息を吐いた。


「手を貸そうか」


また爪先がぴくりと揺れ、次第に小刻みに震えだす。
彼のことだ、誰かに助けを求めるなどとはプライドが許さないのだろう。
例えそれが、膝をぱたりと折るだけのことであっても。

気に食わない。
一人で生きてゆけるわけでもないくせに、他人に頼っている素振りも見せないのだ。
そうして、他人を駒のように使い捨てる。
反吐が出そうだった。


「困ったね」


言いながら、ミンウは地から伸びた脚に手を這わす。
びくりと、あからさまに動揺したのがわかる。


「今、あなたがどれだけ無防備かわかっているのか?このままでは何をされたって仕方がない」


膝をなぞり太ももに指を滑らせると、先程までとは違った震えが伝わってきた。
ミンウは手を止めない。
脚の付け根にまで手を伸ばし、やわと撫でると、埋まった瓦礫の下からくぐもった声が聞こえた気がした。


「例え屈辱を味わうことになろうとも、例え」


ぴんと伸びた爪先を眺め、目を細める。


「…殺されても」


瞬間、すらりとした脚が振り下ろされる。
殺傷能力のありそうな踵がミンウの側を掠めたが、距離を取ったため当たることはなく空を切った。
見れば、無理な姿勢で蹴りを繰り出したためか、寸分も動けなくなったようだ。
腰を捻ったのだろう、痛みに耐えるように震えている。

ミンウは、つい吹き出してしまった。


「全く、仕様のないひとだ」


内に燃える憎しみが、奥底にしまい込まれてゆく。
ミンウはこの気高いひとを助け出すため、もう一度傍に寄り膝を折った。






何か面白いものが撮れた。




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