油断していた。
ティナを守らなければ、とそれだけを考えていたため、自身への注意が足りなかったのだろう。
襲い来るイミテーションの一撃に、対処が遅れた。

避け損ねた刃が肩を切り裂き、赤い飛沫が舞う。
その向こうで、ティナが口元を覆うのが見えた。


「…許さない!」


ティナの周りに力が溢れ出し、中心で弾ける。
瞬間、強い光に包まれた姿は、獣のようだ。
しかし神話にさえ在りそうなほどの神々しさを兼ね備えてもいる。

決着はすぐだった。
その爪でイミテーションを切り裂き、間髪入れずに熱の塊を放つ。
イミテーションは低い断末魔を上げ、空気に溶けていった。

地に四つ足をつき、喉からぐるるると獣の唸りが聞こえる。
このまま彼女に切り裂かれるのもいいな、とクラウドはぼやけた頭で思う。
しかし、ティナはすぐに人の身に返り、クラウドに駆け寄った。


「クラウド!」

「…悪いな、迷惑をかけた…」

「そんなこといいの、大丈夫!?」


ティナはその細い指で傷を確かめる。
致命傷ではないが、すぐには動けない。
クラウド自身そう判断していたが、ティナも同じ結論を出したようで、短く吐息した。


「あんたは…強いな。逆に、守られてしまった…」

「ううん、違うよ。クラウドが守ってくれるから、私も強くなれるの」


出血によって冷えた指先を、ティナの暖かい手のひらが握り込む。
泣かないでくれ。
そう思って、クラウドも緩く握り返す。

ティナは少し息を飲んで、指をほどいた。


「…ティナ?」

「クラウドはここで待ってて。さっき上から、向こうにポーションがあるのが見えたの。私、取ってくる」


そう言って立ち上がるティナを、クラウドは目で追った。
置いていかれる、と思うと何故か気が急いた。


「大丈夫。すぐに戻ってくるから」


『全部終わったら、また ね』


咄嗟にティナの手を掴む。
きゃっ、と小さくティナが声を上げた。
無理に動いたせいで傷口が開くのを感じる。


「あ…っぐ」

「クラウド!?」


ティナの焦った声が、まるで水中にいるように歪んで聞こえる。
思考もままならない中で、クラウドは指先に力を込めた。
行かせたく、ない。


「…っくな…」

「え?」

「行かないでくれ…!」


ティナの瞳が大きく見開かれる。
そんなに開いたら、目が零れそうだ。


「クラウド、泣かないで」


そう言って、頬に触れられる。
ティナはその場にゆっくりとしゃがみ込んだ。


「…どうして…」


自分で引き留めておいてどうしてもないと思ったが、ティナは首を傾げた。


「どうしてかな。クラウドのそばに居なきゃいけない気がして」


クラウドは漸く視線を落とし、握ったままの指先に気付く。
かなり力を込めていたのか、ティナの指は真っ白になっている。
けれど、ティナは何も言わなかった。
ごめん、と小さく呟いて手を離すと、ティナはだいじょうぶだよ、と頬を撫でた。


「私回復はあんまり得意じゃないんだけど、いいかな」


傷口に、今度は暖かい光を保って当てられた指先に、クラウドは緩く息を吐く。


「ポーションよりも、ずっと効きそうだ」


ティナが柔らかく微笑む。
クラウドも、微笑みを返した。






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