偶々見掛ける、というのは珍しいことだった。
何せ、やりたいように動く者だ。
指示を出しても従うはずもなく、こちらの都合もお構いなしに宿命の敵と刃を交えに行く。
かと思いきや、突然現れ二言三言会話したと思えばまたすぐに居なくなる。
暫く姿を見ないと思えば何処からか書物を引っ張り出してきて、寝食も忘れ調べ物に没頭していたときもあった。

そんなセフィロスが何をするでもなく立ち尽くしているのを発見して、皇帝は思わずその姿を追っていた。

どうせ、話し掛けても会話には応じまい。
そう思いつつもその背中に近寄ると、セフィロスは突然その場に崩折れた。
驚いた。今の今まで、そんな兆候はどこにも無かったはずだ。


「何があった」


傍らに寄ると、鋭い眼光が睨み付けてくる。


「…寄る、な」


見れば腹部を押さえている。
漆黒の居姿ゆえわかりにくいが、指の隙間から大量の血液が溢れ出し、ぽたぽたと足下に染みを作っていた。
一言発しただけで負担がかかったのか、セフィロスはごぼっと口から血を吐き出した。
皇帝は、ふんと鼻で笑う。


「お前一人でどうにかなる傷か」


構わず近寄り、患部と思しき箇所に手を伸ばす。
触れた傷は想像以上に深く、内臓にも損傷が見られた。
皇帝は指先に魔力を集め、回復の詠唱を呟く。

額に浮いた脂汗がきつく寄せられた眉間を滑り落ちる。
詠唱が進むに連れ、苦痛にまみれていた表情が次第に安らいでゆく。
青白くさえあった頬に赤みが戻った辺りで、皇帝は詠唱を止めた。

乱れた前髪が額にかかったまま、セフィロスは息を長く吐いた。


「…礼は言わんぞ」

「元よりそんなもの、求めてなどいない」


立ち上がると、地に付いていた膝からぱらぱらと砂塵が落ちる。


「…お優しいことだ」


初めて聞く、セフィロスの苦い声に自然と皇帝の口元が弧を描いた。


「お前は私の大事な駒だからな」


背を向けると、後ろから舌打ちがかかる。
皇帝は喉を震わせて笑いを零した。







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