バッツは、この世界では極力ジョブチェンジをしないようにしている。
一人で戦うことの多いここでは、正しい選択とは言えない。
仲間のサポートがないため、臨機応変に戦い方を変えるのがベストである。
しかし、バッツのジョブチェンジ後の姿はこの世界の仲間の記憶を刺激してしまうらしいものが幾つかあった。

例えば、魔法剣士の姿でフリオニールに会ったとき、彼はいきなり泣き出してしまった。(あのフリオニールが、である)
驚いて、慰めようと肩に手を置くと余計に嗚咽が酷くなってしまった。
セシルもそうだった。
竜騎士の姿を見た途端、急に苦々しい顔になった。
と思いきや、次の瞬間抱き付いてきたのだ。
再会の喜び、なんて生易しいものじゃなかった。
もう逃がさないとでもいうようにぎゅうときつく抱きしめられ、バッツが苦しいよ、とその背中をタップしてやっと我に帰ったように離してくれた。

そして二人とも、理由を問うと曖昧に笑うのだ。
何でもないよ、と。


その笑顔がバッツは好きではない。
苦しいくせに、感情を笑顔で無理に閉じこめようとしているようで。
だからジョブチェンジはほぼ封印しているに近い状態だった。




「何で?勿体ないじゃん」


あっけらかんと言われて、バッツは目をぱちくりさせた。
ジタンもその様子に、まばたきをする。澄んだ目だった。


「まぁ、確かにやりにくいかもしれないけどさ、それもバッツの個性だろ?」

「そう…かな」

「そうだよ。それに、俺ジョブチェンジっての一回近くで見てみたかったんだ!」


バッツの表情に次第に明るみが差す。
認めてもらえるというのはやはり嬉しい。


「んじゃあ、こういうのはどうかな」

「げ、シーフ?俺のお門奪うなよ!」

「まだまだ」

「あ、俺の世界にこんな格好したやつ、いるぜ」

「赤魔道士?」

「赤魔道士っていうのか。そんな風には見えなかったけど…」


ジタンはどのジョブチェンジ姿も面白がって感想を言った。
いわくの魔法剣士や竜騎士に変わったときは少し様子を見たが、彼らのような反応はない。
バッツはどこか安堵した。


「んで、これが黒魔道士」


姿を変えても、ジタンが何も言わない。
バッツは嫌な予感がして、深く被った帽子のつばの向こうにジタンを見た。
泣きそうだ、とバッツは思った。
笑おうとしてるのに、いとおしいのに涙が零れる。そんな表情だ。
ジタンが誰かの名前を口の中で呼んだみたいだったが、バッツには聞き取れなかった。


「…どうした」


ジョブチェンジを解いて、問う。
ジタンはやはり、笑った。
何でもないよ。


「水差しちゃって悪かったな」

「いいよ。久し振りに色々ジョブチェンジできておれも楽しかったし」


ジタンの表情を見ないように、その場に寝転ぶ。
そのまま風が頬を撫でるのを感じていた。

不意に、歌声が響く。
ちらりと横目で窺うと、ジタンが小さく口ずさんでいる。
心を洗うような、それでいてどこか物悲しくなるようなメロディーだった。


「それ、何の歌?」

「あぁ、悪い。いきなり」

「いや。好きだよ、その歌」


ジタンは少し微笑むと、仲間に教えてもらったんだ、と言う。


「仲間に?」

「あぁ。いつか帰るところの歌…」

「いつか帰るところ…」


バッツの脳裏に、暖かい日差しがよぎる。
迎えてくれる人たち。幼少を共に過ごした友人。はるかなる故郷。
そして…


「…バッツ?」


少しぼうっとしてしまっていたらしい。
どうした、と心配そうに覗き込むジタンにバッツは笑顔を返す。


「何でもないよ」







ディシディア面子はかけがえのない仲間だけど、辛い記憶の共有は出来ないわけで。




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