頭がぐらぐらする。
軋む体を、暖かい光が包む。
視界が戻ってこないままでも、回復魔法をかけられているのがわかった。

ミンウのケアルは心地良い。
効きが良いのは確かだが、それだけではなくどこか安らぐ気がするのだ。
高位の白魔導師ともなればケアルにリラクゼーション効果が付くとでもいうのか。

つらつらとくだらないことを考えながら、混濁した意識が浮上するのを待つ。
と、不意に頭を撫でられる感覚に目を覚ました。


「おや」


こちらを見下ろしていた青年が、少し目を見開く。


「随分早かったね、もう少し眠っているかと思っていたよ」

「何だ、この手は」


会話には応じずに一睨みすると、苦笑混じりで手を引っ込めた。
そうしてから今度は起きあがろうと体を捩ると、褐色肌の腹が目前に来た。

何だこれは。

思考が止まり、代わりに今まで気付かなかった感覚が前に出る。
ただ地に寝かされているのではなく、頭の下に何か柔らかいものがあるのだ。
状況からして、それは。


「…貴様!何のつもりだ!」

「おっと。不服だったか」

「不服だと…」


かっ、と頬が熱くなる。


「フリオニールは喜んでくれたんだけどね。お母さんみたいだ、と言って」


まぁそれもどうかと思うけどね。
そう行って肩をすくめる青年に向けて、魔力を向ける。


「やめなさい。そんなことをしてまた気を失ったらどうする」

「ならば口を慎め。この私に対して子ども扱いなど、侮辱でなければ何だと言うのだ!」


咄嗟に押さえられた腕を振り払うと、青年はきょとんと目を丸くした。


「…そんなつもりはなかった。ただでさえ体が弱っているのだから、少しでも楽な方がいいと思って」

「ふん。そうして頭を撫でて、か?」

「それは…いや。うん、そうだな」


顎を少し持ち上げることで続きを促すと、青年は薄く微笑んだ。


「私があなたに触れたかっただけだ」


一際大きな眩暈がして、皇帝は白いローブの膝元に顔を埋めた。
再度、頭を撫でられた。もう振り払う気力はなかった。






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