多少は和やかな空気になったところで、改めてセシルがライトニングに微笑みかける。


「ぼくも元軍人なんだ。途中で一度離反したからね」

「随分とプロが多いのだな」

「あ、なら俺も軍人だな。反乱軍にいたし」

「フリオニール、あんたは黙ってろ。ねじり切るぞ」

「根に持ちすぎだろ!い、いやごめんなさい!」


二人のやり取りにセシルがまたくすくすと笑う。
ライトニングは呆れているようだったが、釣られて微笑んだ。


「ねえ、君のいた世界はどんなところだった?」

「…どういう意味だ?」

「ぼくたちはみんな、別の世界から来ているようなんだ。国も文明も全く違う」


話を聞いてみると結構面白いよ、とセシルが言うとライトニングは少し考え込んだ。


「私の世界か…発達はしていただろうが、文明に頼りすぎていたきらいがあるな。私も魔法や召喚の力に振り回されていた」

「召喚か…君の世界ではどんな幻獣がいたの?これも結構みんなばらばらなんだよね」

「幻獣…?実のところ、よくはわからない。私が召喚出来たのはオーディンだけだからな」

「オーディン!?」


セシルが身を乗り出したので、ライトニングが反射的に一歩引く。
それに気付いて、セシルが照れ臭そうに笑った。


「ああすまない、ぼくの世界ではオーディンはぼくの仕えた方だったんだ」


関係ないのはわかっているんだけどね、と言いながらもセシルは嬉しそうに頷いた。


「やっぱり、騎乗している姿はかっこよかった?」

「騎乗?」

「…馬に乗っていないの?」


やっぱり色々違うんだなあ、とセシルが息を吐く。
落胆している様子に、ライトニングは間違っていなかったかと記憶を辿る。


「…馬は乗ってはいないが、馬になる」

「なる!?」

「そして私が乗った」

「好感度アップなんだね、変形合体で好感度アップを狙ってるんだね陛下!」


何故だかがくりと項垂れてしまったセシルにライトニングが戸惑っていると、その腕にそっと触れられて慌てて振り返る。

何だ、と声を荒げようとして目線の先が空いていたことで言葉を飲んだ。
少しだけ下方に顔を傾けると、僅かに目にかかる深緑の髪の向こう、興味深そうにライトニングを見つめる瞳とぶつかる。


「…幻獣の…」

「何だ?」


結局先に飲み込んだ言葉をそのまま吐くことになったが、声音は格段に柔らかくなっていた。


「幻獣の話なら、私も聞きたいな」

「…お前も闘うのか?」


ライトニングの驚いたような声にティナはええ、と頷く。


「私も…自分の意志ではなかったけれど、軍に居たことがあるの」

「驚いたな、一見すると一般市民としか…」


言って、ライトニングは僅かに息を止めた。

自分は知っている筈だ。
闘えるはずも無さそうに見えて、驚くほど実戦慣れしている者を。
晴天を思わせる笑顔の少女。
その傍らにはいつも彼女を護ることを信条にする者も居た。
顔が、思い出せない。

彼女らは何処に居るのだろうか。
何をしているのだろう。
ざわ、と胸騒ぎがする。

…置いてきた?


「どうしたの?」


はっと我に帰ると、ティナが心配そうにライトニングの顔を覗き込んでいた。
いや、と首を振る。


「お前に似た者を知っている気がしたんだ」

「私に?」

「そいつはもっと…はしゃいだりうるさかったり、よく笑っていたが」


ライトニングが言うと、ティナはしゅんと目を伏せてしまう。


「ごめんなさい、私…あまり自分の気持ちがわからなくて」

「何故謝るんだ」


ライトニングは苦笑すると、手のひらでティナの頬に触れる。
オニオンナイトがひいと小さく悲鳴を上げた。

そのまま指を滑らせて人差し指でティナの顎を掬うと、笑む。


「私の言う者と同じである必要などない。お前はお前のやり方で、笑ってくれないか」


ティナは少しだけ目を見開いてから、ありがとう、と笑んだ。

遠巻きに、オニオンナイトは渋い顔を作る。


「…僕、あの人仲間になるの、困る」

「…レディに対して言うのは心外だけど、同感だ」


しかし、とライトニングは口を引き結ぶ。
心中の乱れは収まらないままだ。
脳裏に浮かんだあの二人が消えない。
戻らなくては、と心が叫んでいる。

ライトニングは女神の方をばっと振り返った。


「コスモスと言ったか」

「はい」

「…私は戻れないのか」


絞り出すような声だった。
コスモスは瞳を閉じて、ゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。あなたの元居た世界へ帰しましょう」

「出来るのか!?」

「あなたにはまだやるべきことが残っている様子。ですが…」


コスモスは一呼吸置いて、ライトニングを見据える。


「全て終わったら、私たちの力になってもらえますか?」

「…全部終わったら」


ライトニングはすらりと腰に携えた剣を抜き、掲げた。


「そのときこそ、共に闘おう」

「…わかりました」


微笑みに、ライトニングが頷き返す。
流れるような所作で剣を鞘にしまう。
鍔がかちんと音を立てる前に、ライトニングの姿は空に溶けた。


「いい奴だったな」


バッツが空を見上げながら呟く。


「また来てくれると思うか?」

「来るだろう」


即答したスコールに、どうしてだ、とバッツが問う。
スコールは事も無げに肩をすくめる。


「本人がそう言っていたからな」

「あっさり信用しちゃって、まあ」


バッツが揶揄の色を込めて笑うと、ティナも声を上げて笑った。


「素敵な人だったものね」

「ティナ!僕そういうのいけないと思うんだ!」

「そうだ!女の子同士なんて不健全すぎる!」

「……どうしたの?」


オニオンナイトとジタンに詰め寄られ困惑するティナの元へフリオニールが慌てて駆け寄り、二人を抑える。


「お前ら、ティナが困ってるだろう!」

「うるせえ、首根っこ掴むな!すり潰すぞ!」

「ジタンまでそんな恐ろしいこと言うな!!」


元の人数に戻った秩序の軍勢を眺め、ウォーリア・オブ・ライトはコスモスを振り返る。


「コスモス…良かったのか?」

「ええ。また来てくれると、彼女が言っていましたから」


コスモスは変わらず笑みを浮かべていたが、どこか寂しそうに見えた。
慰めるというのも可笑しな気がして、ウォーリア・オブ・ライトは代わりに口元に僅かな笑みを浮かべて柔らかくコスモスを見つめた。

それに。
言って、秩序を司る女神はゆるりと微笑む。


「容量も足りませんしね」


ウォーリア・オブ・ライトの笑みは五秒と保たなかった。
眉間に新たな皺がくっきりと刻まれる。


「…コスモス」

「そんな、ひどい…」








ライトさんの本編時間軸は、ラスボス連戦中のあのときをイメージしてます。




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