沈黙が長く続いていた。

クラウドと二人きりだと、会話が保たない。
何か話したとしても、どうしても二言三言で終わってしまう。
結果、二人でいるときは無言の時が大半を占める。
けれどそれが気まずさを生まないことが、スコール自身にも不思議だった。


何か、居心地がいいんだよな。


ふと心中で漏らし、一人で勝手に気恥ずかしくなる。
クラウドもそう思っていてくれるならいいのに。
けれどクラウドはそんなことを自分から言い出す類の者ではない。
スコールも言わない。
だからわからない。

そっと隣を盗み見て、自分より幾分低い位置にある顔を眺める。
伏せた瞳を彩る睫毛は長く、こんなに長くちゃ視界を遮られるのではと余計な心配をしてしまう程だ。
だからこうして見つめていても、気付かれないだろうという妙な安心感がある。

スコールの思いを打ち砕くかのように、不意にクラウドが目線を上げた。


「…どうした?」

「…別に」


ふいとそっぽを向けば視界から鮮やかな金が消え、羞恥だけが残る。

そりゃあ、見てればばれるよな。
近付いてみようとして、気付かれたら逃げる。
自分の悪い癖だというのはわかっていた。

クラウドは少しだけ不思議そうにして、それでも言及することなしにスコールから意識を逸らすだろうこともわかっている。
それに要する時間よりもう少し長く待って、スコールはちらりとクラウドを見やる。
視線がぶつかった。


「なっ…」


驚きで詰まった声を落ち着かせて、何だよ、と問う。


「別に?」


笑いを含んだ声で先のやり取りを再現され、スコールはむっと眉を寄せる。
クラウドはそれが面白いようで、まじまじとスコールの顔を覗き込む。


「痛いか?」

「何が」


主語のない唐突な問い掛けにスコールがぶっきらぼうに返すと、クラウドは自信の額に指ですすっと一本の線を描いてみせた。
倣って自身も自分のそこをなぞる。
でこぼことした感触が指を伝わる。


「…ただの傷痕だ。もう治ってる」

「そうか」


簡単な相槌を返し、クラウドが指を伸ばした。
今度はスコールの額に。

びく、と体をすくめたが、クラウドは構わず傷痕に触れる。


「痛いか?」


先と同じ言葉を掛けられて、どう返したものかと迷う。
言葉は同じでも、状況が違う。
痛いというよりはむず痒い。
…というより熱い。触れられた箇所が。

頬まで熱くなる前に、スコールはやはり先と同じ言葉を返すことにした。


「…だから、もう治ってる」


言って顔の前の障害物を払いのけようと腕を上げたとき、傷痕に触れる指先に力が込められた。


「いだだだだ!痛、痛い!」

「何だ?やっぱり痛いのか」

「皮膚が薄くなってるんだ、当たり前だろ!」


今度こそ勢いよく腕を払いのけると、じくじくと痛み出した傷痕を押さえる。
痛いには痛いが、それと引き換えに熱が引いてきたことにほっと息を吐く。


「あんた、何がしたいんだよ」


安堵しようともやっぱり痛いので、不満を一杯に含んだ文句を投げつける。
クラウドは少し考え込むように顔を傾けた。


「…何だろう。何がしたいんだろうな」

「はあ?」

「知りたくなった、かな」


その傷のこと。
クラウドがぽつりと呟く。


「どんな風に傷が出来たのか、どんな奴につけられたのか、どんな風に感じているのか。何でもいい、あんたのことを」

「…わ…」


また喉が詰まる。
ああ、だから何がしたいんだよ。
俺を困らせて楽しいのか。
俺はちっとも楽しくない。
でも、どうしても居心地がいいから余計に困るんだ。


「…わけのわからないことを」

「わからない、か?」


瞳を覗き込まれて、顔が熱くなる。

何も言えなくなったスコールの、否定でしかないその沈黙にクラウドは心地好さそうに目を細めた。








クラウドがお兄さんしてると嬉しいけど、傷痕を力一杯押すのは流石に外道。




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