兵学校の寮は基本的に二人部屋なため、事プライバシーに関しては保持されていない。
如何に相手を気遣うかがお互いの生活に掛かってくる。

その点に於いてルームメイトがセシルであるカインは気楽な方だった。
学校に上がるまでは国の運営する孤児院で共に生活していたこともあり、今更気遣いなど逆に気持ちが悪い。
風呂上がりに全裸で部屋を彷徨いていようが、そのまま冷えた牛乳を一気飲みしていようが全く気にならない。
デリカシーのなさがどうのと度々諍いを起こす学友たちを見ていると、こんなに楽でいいものかと悪い気がするくらいだ。

寝起きのよろしくないセシルのルームメイトになるということは遅刻による罰を連帯責任で負わされる可能性があるということなのだが、それこそカインには今更で、セシルを叩き起こすのなど朝飯前だ。
とっくの昔に慣れている。


そうは言っても、一人の時間が恋しくないわけではない。
同室で、更に学校のカリキュラムもほぼ同じとなれば、下手をすれば二十四時間行動を共にすることになる。

だから、珍しくセシルが調べ物をすると言って部屋に居ない今、することとなれば一つだった。


寝台に横になって、前を寛げる。
気分がそちらに向いているからか、既にそれは下着の中で硬さを持っていた。
下着をずらすと、外気に触れて硬さを増した性器を手中に収める。
ゆっくりと扱きだすとそれはすぐに形を変えていく。
こんなこと、セシルの前では出来ない。


「……っあ、」


抑えてもまだ小さく漏れる声に焦りを覚えた。
部屋に一人とは言え、隣室に聞こえてしまっては意味がない。

カインは息を整えながら、亀頭に指先を這わせる。
割れ目に沿って何度も行き来させるとぬるぬると滑りがよくなってくる。

走る快感と共に、頭の隅をふわりとした金の髪がちらつく。
カインはそのイメージを追い払おうと頭を振る。
あの子をこんな下世話な妄想で汚してはいけない。

代わりにいつか雑誌で見た、豊満な胸と細い四肢の映像で思考を満たそうとする。
豊かな胸が上下に揺れるところ、しなやかな腕が背中に絡みつくところを想像すると体が熱くなった。

けれどその顔が別のものとすり替わってしまいそうで、カインは手を休めた。
荒い息遣いだけが残る。

早く済ませてしまわないと、いつセシルが戻って来ないとも限らない。
こんなところを見られたら…

…実際のところ、そう困るわけでもない。


年の頃も近いセシルとは、性行為に興味を持つ時期も同じだった。
誰それがえっちな本を持ってきていた、少し見せてもらった、ずるいぞおまえばっかり。
そんな話を夜中にしていたとき、セシルがぽつりと呟いた。

人にしてもらうのってそんなに気持ちいいのかな。

夜中で妙に気分が高揚していたのも良くなかった。
決断から行動まではあっと言う間で、結果、癖がついてしまってお互いに抜き合う習慣が出来た。
今もまだ続いている。


セシルの手でされるのは、自分でするよりずっと気持ちいい。
あの指遣いを真似るようにカインは自身の性器を緩く握り込む。
手をぐっと裏まで回して、まるでセシルに触れられているかのように。

目を瞑って指先の感覚を追う。
脳裏にあのときのセシルの顔が浮かぶ。
自分の手で追い詰められていくセシルの、眉を寄せて堪えている顔。
空いた右腕で顔を塞ぐと、それがより鮮明になった気がした。

裏筋を親指で押し付けるように擦り上げていく。
上部に辿り着くと、先端を指先で突つく。
じわりと滲み出た液体が指の腹を濡らすと、ぐちゃぐちゃとそこを弄くり回す。
自分では絶対にしないだろう強引なやり方。


「っあ、も、いく、あっ、いきそ…」


知らぬ間に出ていた自身の声に煽られて、上下に強く扱く。
ぞくぞくと背中を這い上がった快感にカインは目を見開いた。


まずい、今セシルのことしか考えてない、でも、もう我慢出来…


「…っく!」


咄嗟に身を起こして枕元に置いてある懐紙を引っこ抜き、重なったそれらの上にぶちまけた。
はぁはぁと上がった呼吸を何度も繰り返して、終いにはああ、と長く吐き出した。

何をやっているんだ。
幾らそういった行為を共にしているからと言って、親友のことを想像したまま達してしまうなんて。
これじゃあセシルが戻ってきたとき顔を合わせられない。

ぐしゃぐしゃと自身が汚した懐紙を丸めて俯く。


「あ、終わった?」


体が固まる。
思考も同時に停止したようで、頭が真っ白になる。
今自分は声を発したか。否。
ここは自分とセシルの部屋で、ならば今喋り掛けてきたのは。


「……いつ、戻った…んだ」


駄目だ。声が裏返った。
顔を上げると部屋の向こう、並んだ机の前に座ってこちらを見ているのは紛れもなくセシルだ。

さっき、とセシルは開いていた本を閉じる。


「今日教わった戦略について対処策を調べてたんだけど、よくわからなくって。カインに意見を訊こうと思ってさ」


これが一番詳しく載ってそうだったから借りてきた。
言って、手に持った戦術書を揺らしてみせる。

馬鹿野郎。下手に読んでた振りなんてするな。
逆さまだぞ、それ。


「…戻って来たなら一言くらい掛けたらどうなんだ」

「だって気持ち良さそうだったから、邪魔しない方がいいかと思って」


ぐ、と言葉に詰まると、セシルが笑って席を立った。
そう広くもない部屋の中、すぐに傍まで来るとベッドサイドに腰掛ける。


「…どれだ。見せてみろ」


手を差し出すと、戦術書はカインの手元をすり抜けて寝台の上に置かれる。


「何だ?もういいのか」

「いや、まず抜いちゃおうよ」


頬がかっと熱くなる。
カインは赤く染まっているだろう顔を見られぬようそっぽを向いた。


「見ていたんだろう。もう済んだ」

「うん、だから次はぼくの」


ぎし、と骨組みが軋む音に振り向くと、セシルは下を緩めて寝台に乗り上がっていた。
驚いて身を引くと、まだ緩めたままだった下衣から脚が抜ける。


「あ、その格好やらしい」

「馬鹿なこと言ってる場合か!ひ、人がしてるのを見ておまえ、そんな…」


『そんな』状態になっているセシルの下半身を見下ろして、変に気恥ずかしくなる。
初めて見るわけでもないのに。


「だって興奮するもんはするよ。ほら早く」


向かい合って座り、脚を開いて急かすセシルにもう言うべき筈のことが見付からなくなってしまう。
ぱくぱくと何度か口を開閉させた後、カインは諦めてその場に座り直した。

触れ易いように体を寄せるとセシルが膝を曲げて隙間を作る。
そこに自身の脚を滑り込ませると、ぴったりとくっついた肌の温度に肌が粟立つ。
既にそそり立つそれを握り込むと、セシルがはあ、と息を吐いた。


「…おまえ、まずいんじゃないのか」

「んっ…なにが?」

「俺が自分でしてるのを見て、ここをこんなにして」

「あ、っ…こんなにさせてるのは…カインじゃないか」


上擦った声に耳を奪われて思考が低迷しそうになる。
まずいのは自分の方だ。
セシルに触れられるのは気持ちいいから嫌じゃない。
寧ろ多分、好きだ。

けれど、触れるのも嫌ではないのだ。
戻れないところに足を踏み入れている気がしてならない。

不意にセシルの腕が首に回ってびくりとする。


「…だって…カインにしてもらうのが気持ちいいんだ…あ、そこ。そこイイ」


セシルはそのまま抱きついてきて、カインの肩に頬を乗せる。
熱い吐息が首筋を這って、背中が震える。
おかしくなりそうだ。


「んっ、ん、…あ、自分でするときも、カインのこと考えてるときが…一番きもちい」


ぼんやりした頭でセシルの言葉を反芻する。
脳に意味が届いたとき、カインはがばっと身を離した。


「…おまえ!俺をオカズにしてるのか!?」


セシルはきょとんと目を丸くする。


「だって他に知らないし。いく直前のちょっと泣きそうになってる顔思い出すとカウパー半端なくてさ、すごい気持ちいいんだよ」


悪気なく伝えられたとんでもなく恥ずかしい言動に、今度はカインがセシルの肩に顔を埋める。
親友の暴走を止められるのは自分しかいないのに、それを助長させてしまっている気がする。
現状がまさにそうだ。

脱力してしまった肩をとんとん叩かれるも、暫くは再開など出来そうにない。
というか、もう終わりにしておかないと本格的にまずいかもしれない。


「だからさ」


耳元で囁かれて、喉がひくっ、と鳴る。
次いでセシルの手がカインの性器に触れる。
先程出したばかりだというのに、もう頭をもたげかけていることにカインは初めて気付いた。


「さっきみたいな声、聞かせてよ。いきそうって喘ぎながら泣くところ、ぼくに見せてみて」


ぞくぞくと腰を這い上がる感覚に支配されてセシルにしがみつく。

まずい。もうこれ以上は。
セシルとは親友で、そりゃあちょっと行き過ぎたところはあるけれど友達なわけで。
戻れる内に止めておかないと取り返しがつかなくなる。
こんなとき親友ならどうやって諫めるべきなのか。

ゆっくりと顔を上げてセシルと視線を合わせる。
熱っぽく潤んだ瞳が僅かに揺れた後、柔らかく細められた。


…親友って、どうやるんだったっけ。








行き過ぎセシカイ。
多分十代半ばの少年時代。

レベル65は4のクリア目安レベルらしい。




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