ぐぐ、と握った拳に力を込める。
息を一度深く吸い込み、目を閉じると体内に巡る魔力の流れが感じ取れる。
腕を突き出す瞬間に掌を前方に開く。
「氷塊よ!」
炸裂した魔力の塊の行く先を見てから、どうだとばかりに振り返るも、オニオンナイトの表情は決して明るくなかった。
「えーと…どうだった?」
フリオニールがおずおずと問うと、オニオンナイトはぐっと眉を寄せた。
「駄目だね。全く戦力にならないよ、それじゃ。第一それブリザドでしょ?」
「…ブリザドだが」
「ブリザガとまでは言わないけど、せめてブリザラくらいじゃないと実戦向きじゃないよ」
「ラ?」
「え?」
会話が通じてないのは何となくわかったものの、妙な空気を振り払ってオニオンナイトが腕を組む。
「いいから、もう一回!」
「ええー…」
「えーじゃないよ。魔法を教えて欲しいって言ってきたのはフリオニールでしょ!」
憤慨すると、フリオニールは口の中で何か呟きながらもまた体勢を整えた。
オニオンナイトは腕組みしたまま、その様子を見定めるようにじっと見入った。
フリオニールが魔法の特訓をしたいと申し出てきたときは驚いた。
武器の扱いに長けている分だけ今までは魔法に重きを置いていないようだったが、弱点を克服したいというフリオニールにオニオンナイトも力になれるならと二つ返事で了承した。
頼られたというのが少し嬉しかった、というのもあるかもしれない。
「それにしてもさ、フリオニール」
「えぁっ?」
声を掛けたタイミングが悪かったのか、フリオニールの指先から氷風と氷の欠片がぱらぱらと舞い落ちた。
じろりと睨まれる。
「今せっかく上手く行っていたのに…」
「わ、悪かったってば」
両手を胸元に挙げて制すると、フリオニールは仕方ないといった風で溜め息を吐いた。
「それで?」
「えっ」
「え、じゃないだろう。何か言いたいことがあったんじゃないのか?」
無かったんなら怒るぞ、と付け足されて慌てて口を開く。
「…何で僕だったの?」
魔法を教わるのが。
オニオンナイトは確かに戦闘に魔法を取り入れてはいるが、決してその道の専門ではない。
魔法が得意なメンバーなら、仲間の内に別の当てがあっただろう。
「別に、ティナに頼んだからって僕は怒ったりしないよ?」
睨むくらいはするかもしれないけど。
心の中でこっそり呟くも、フリオニールはそういうんじゃないんだ、と笑う。
そしてううん、と唸ると頭を軽く掻いた。
「ティナは何て言うか、天才肌に近いだろう。感覚で魔法を使いこなしているっていうか」
確かにそうだ。
ティナは魔導の申し子とも言うべき、魔法と共に育ってきたひとだ。
体内で膨大な魔力を練り上げるのも、呼吸をするのと同じくらい自然にやってのける。
初心者に教えるのには向かないかもしれない。
俺は、とフリオニールが呟いたのを耳に顔を上げる。
「本から理論を学んで、後は体で覚えていくタイプなんだ。だから、熟練していく経過ごとじゃないとよくわからないっていうか」
言って、照れ笑いを浮かべるのを見てすとんと納得する。
世界の違いはあれど、その経過はオニオンナイト自身が経験してきたものだ。
「だから僕だったんだ?」
「ああ…何だか近しいものを感じた、と言えばいいのかな。だから魔法の特訓をしようと思ったとき、師に思い浮かんだのはお前だったんだ」
真っ直ぐに見つめられて、恥ずかしくなって目を逸らす。
照れ隠しに仁王立ちをしてみせると、さあ!と大きく声を上げた。
「再開するよ。継続は力なり、だからね!」
「わかってるさ…」
「魔法の練習か。精が出るな」
不意に掛けられた背後からの声に、フリオニールの背がぴんと伸びる。
それを見ながらオニオンナイトも自分が同様にしてしまっていることに気付いた。
ゆっくり振り返ると、ウォーリア・オブ・ライトが柔らかい表情を浮かべてそこに居た。
笑顔に見えなくもない。
「そう気負わないでくれ。ここで見ていてもいいだろうか」
そう言われて断れる筈もない。
が、頬を弾きつらせた後慌ててフリオニールと身を寄せ合い、ひそひそと囁く。
「お、おい!どうするんだ、俺あの人の前で特訓なんて無理だ!得意な武器ならまだしも、魔法なんて…」
「僕だってそうだよ!偉そうに教えてるとこなんて見せられない!」
「俺相手だったら偉そうにやるつもりだったのか!?」
「い、今はそんなこと言ってる場合じゃ」
ぎし、と鎧の軋む音がすぐ近くで聞こえて恐る恐る肩越しに後ろを覗く。
案の定すぐ傍まで歩み寄ったウォーリア・オブ・ライトと視線が合って飛び上がりそうになる。
「君が教えているのだな」
「はいっ!」
条件反射のように姿勢を正した後、余りに不自然だったと思い返して僅かに肩の力を抜く。
「継続は力なり、か。いい言葉だ」
「あ、あの…生意気だった、かな」
ウォーリア・オブ・ライトは不思議そうに首を傾げる。
そしてすい、とオニオンナイトに手を伸ばした。
その手は当然のように、兜越しに頭を撫でた。
「何故だ?立派な戦士になる上で、君が学んできたことなのだろう。だから、いい言葉だと感じた」
指の感覚はわからないまでも、頭を撫でられているのが気恥ずかしくてあの、あの、と形を成さない言葉を何度か続ける。
しかしウォーリア・オブ・ライトはそれで気付いたようで、ああ、と声を漏らすとすぐに手を下げた。
「これは立派な戦士にすることではなかったな。すまなかった」
「い、いい…んです」
熱くなった頬を見られないように俯くと、急いで背を向ける。
ぽかんと口を開けたままでいるフリオニールに呼び掛けた。
「さ、今度こそ続きやるよ!」
「お前、その顔…」
「やるの!やらないの!」
フリオニールはくすくす笑いながら、オニオンナイトの肩に手を置く。
「やるさ!頼むぞ、先生」
何だか揶揄かわれているようで、置かれた手を払ってやろうかと腹の内で考えたがすぐに思い直す。
たまにはこういうのも、悪くない。
代わりに、ビシビシ鍛えてやろう、とオニオンナイトは笑んだ。
最弱から最強へと成長を遂げた、たまねぎ剣士の誇りと共に。
FC組でほのぼのめに。
頑張ってる後輩が可愛いだけなのに恐縮されてる1さん。
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