部屋の中心を陣取る長机を囲むようにして座る影。
窓を背にした一人が一対の手を机に置き、もう一対は肘を付いて指を交差させた。


「この度諸君ら学友会の者に集まって貰ったのは、他でもないこの学園の危機に当たり手を貸して欲しいのだ」

「ふん」


居丈高に鼻を鳴らしたのは、比較的上座に座る第二期卒業生だ。


「外に助けを求めるようでは無力さを露呈するようなものだな。いい加減に場を退くのが最上策なのではないか」

「皇帝」


向かいから諫めるような声が上がる。
名を呼ばれた皇帝は向かいを忌々しげに見やり、発言者である第一期卒業生と暫し視線がぶつかる。

先に目を反らしたのは皇帝の方だった。
あからさまに吐かれた溜め息は議題の続きを促すものだ。
いたずらに会議が長引くのを阻止出来たと、第一期卒業生であるガーランドも小さく息を漏らした。

ヴィランズ学園の学園長を勤めるカオスはうむ、と頷くと本題に入るべく指で支えていた顎を上げる。


「ちょっといいかい」

「…何だ、クジャ。重要なことか」


すいと挙げられた手に話題を遮られ、不満も露わにカオスが睨みをきかせる。
クジャはその態度を物ともせず、肩にかかる髪を面倒くさそうに払いのけると机の下で脚を組んだ。


「君のそのネクタイの柄、何なんだい?ありえないにも程があるんだけど」


交差した指がばきっと音を立てる。


「…重要なことか、と言ったであろう」

「重要に決まってるだろう?悪趣味なものを見てると吐き気がするんだよ」

「そうですね」


横から出た声に、視線がそちらに集まる。
それらを一身に受けたアルティミシアは、しかし全く意に介さぬ様子で長く伸ばした自身の爪に視線を落としていたが、横目でちらりとカオスを見やる。


「何に対しての同意なのだ」

「貴方が悪趣味だということ」

ふ、と爪先に息を吹きかけると、ファファファと笑い声が会議室に響く。


「こやつの趣味の悪さなど、今に始まったことではないわ。そうだな、皇帝」

「ふん、懐かしきはカオス学園か」


小馬鹿にしたような笑いの中、ゴルベーザは腕を組み顎を引いて俯いた。
皇帝が生徒会長として君臨していた当時、第四期生として在学していたゴルベーザには思い出したくもない過去だ。
学園長の名を冠した学園の名称に不満を募らせていた生徒たちの署名を集め、生徒たちが学園名を改称した事件である。
ゴルベーザ自身はさして興味もなかったのだが、皇帝の演説の最中に最前列に居してしまったがために「今がそのときだ、パワーを終結せよ!」などと思い切り指を差され、焦って「いいですとも!」と答えてしまった。
その発言が何故か皇帝の演説内容よりも大ウケして、一躍学園内での流行語となってしまったのだ。
ゴルベーザが卒業した後も流行りは廃れることなく、今や他校生にも通じる言い回しになっている。
出来るなら、過去の自分の口を塞ぎたい。呪縛の冷気を使ってでも。


「あのときは世話になったな、暗闇の雲。昔と比べると随分色味が落ち着いたようだが」

「わしも若かったということ…お主は変わりないようだ」


当時を知るゴルベーザは益々俯いた。
生徒会副会長でありながらスケ番の頭だった暗闇の雲は、今でこそ落ち着いて見えるが昔の通り名はキレる葉緑素。
怒ると体が緑色に染まるという何とも特異な体質らしいのだが、ゴルベーザは緑色の彼女しか見たことがなかった。

昔はゴルベーザも配下を連れて歩いたり近隣の学校を制圧したり敵対勢力の一員を悪の道に引きずり込んだりもしたが、今やすっかり足抜けして改心した心積もりでいる。
ああいった手の者とは余り関わり合いになりたくない。
元スケ番なんて怖い女とは…そう言えばスケ番というのはもう死語なのだろうか。

ゴルベーザの思考が何処かに飛んでいる横で、ぐぬぬ、とカオスが呻いた。


「人様の趣味に口出しなどするものではない、いいからこれを見ろ!」


ばしりと叩きつけられるように机に出された一枚の書類を皆一様に覗き込む。
大きな手が退けられた下にあるのは、一枚の履歴書である。

さっと目を走らせたらしいセフィロスが、これが何か、と問う。
速読の得意な彼のことだ、隅々までの情報は把握したのだろう。
図書室で資料を漁ることが多かったにせよ、授業は気が向いたときにしか出ないが試験の成績はすこぶる良いという教師に嫌われる生徒だった。
目の敵にした教師を専門分野で言い負かしたときには教室中から拍手と、そして英雄の二つ名を得たほどだ。

カオスは顔を歪めながら件の履歴書を見下ろすと、言った。


「来期の入学予定者の一人だ。筆記試験の結果も面接での印象も申し分ない。合格の通知も送った後だ」

「それが、不合格にしなければならない理由が浮上したというのですね?」

「察しが良くて助かる」


お褒めに預かり光栄、とアルティミシアが肩をすくめてみせる。
今までだんまりを決め込んでいたエクスデスがファファファと笑った。


「簡単なこと。無に帰してしまえばいいのだ」

「過激派ですねぇ〜。ま、それが一番手っ取り早いでしょ。合格を不当に取り消して、学園の信用も無になって一石二鳥ですもんね」

「煽るな、ケフカ!」


とうとうガーランドの怒号が飛ぶ。
途端にジェクトがおっと、と頬杖を崩す。
もしかして、寝ていたのか。

第二声を飛ばすのを何とか堪え、ガーランドはカオスに向き直る。


「…して、学園長。彼の者の問題点とは」

「うむ。彼奴は光の戦士だった」


しん、と会議室が静まり返る。
またも一様に見下ろされた履歴書の、名前欄には綺麗なブロック体で『Warrior of Light(振り仮名付)』と記されている。
次いで、会議室の中を深い溜め息が満たした。


「どう見ても、だな」

「書類選考を通した者も大概ですけれど、面接の担当者が愚かですね」

「誰なんだい、その馬鹿は?責任取ってどうにかさせればいいじゃあないか」


すい、と一人の手が上がる。
四本の屈強な腕の一つが、申し訳なさげに挙げられてるのを見て、一同はぽかんと口を開けた。


「…呆れたよ!馬鹿を通り越して足りてないんじゃないの!?」

「ホワッホ、ホワッホホホ!わ、笑いが止まらん、役立たず以下だ!」


ケフカの耳障りな高笑いにカオスは体を縮こまらせてぼそぼそと口の中で言い訳を紡ぐ。


「…いや、見るからに悪人顔だったし、言動も然りで…確実にこっち側の者だと…」

「己の尻拭いも出来んのか、まさに虫けらだな」

「だから諸君らに知恵を借りたいと…」


棘が剥き出しの言葉でちくちくとカオスを追いやる皇帝の姿はイジメ以外の何物にも見えなかったが、フォローするだけの気力のある者は居なかった。
がたんと椅子を鳴らし、セフィロスが立ち上がる。


「くだらん。帰るとする」

「ああ、僕もそうするよ」


その声に続いて、では私も、俺も帰るぜとがたがたと椅子の音が響く。
一気に閑散とした会議室で頭を抱えるカオスにガーランドは近寄ると、その肩に手を置いた。


「…学園長」


ぎり、と手に力が籠もる。


「わしも暇な身ではないのだ。つまらないことで今後召集をかけることはやめて頂きたい」


そのまま足音が遠ざかり、会議室のドアがむべもなく閉められた。
卒業生たちの自己主義極まりない態度に、学園方針を変えようかとカオスは独りごちる。
何だか涙が出るのは、夕日が目に痛いからだ。




そして困窮したまま迎えた入学シーズンは、問題の当人からの「第一志望の公立校に受かったので辞退します」という連絡で事なきを得た。
最近の若者は。








年齢的に誰一人生徒として成り立たないので、全員卒業生という形で。
カオスフルボッコ。




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