向けられた刃の煌めきに目が眩みそうになる。
その切っ先と同じくらい研ぎ澄まされた闘志が寸分違わず皇帝に刺さる。
因縁があるわけではない。
闘う理由が全くないわけでもない。
そうでなければ配下にしたいくらいだ。
自身とは正反対の、ゆるやかな曲線を描きつつ静かに光を反射する髪の色も、皇帝は気に入っていた。
構えた杖をすると下ろすと、対してセシルは身構えた。
「お前は随分と整った顔をしている」
言葉とは相反して見下して言うと、セシルは拍子抜けしたように目をぱちくりとさせた。
心境に影響してか、切っ先を僅かに落とす。
「…あなたこそ」
「あの甲冑を手離さないのは何故だ?」
隠してしまうのは勿体ないな。
そう言うと、今度こそ動揺してか視線を泳がせる。
「それは…あの姿もぼく自身だからだ。切り捨てられるものじゃない」
皇帝は、くく、と口元を歪ませる。
「過去の罪悪にすらしがみつくか。その姿同様、女々しいな」
「な…」
気にしていることを。
セシルはぎりと剣を持つ手を握り締めた。
今でこそ、鍛えた体は男性らしさの象徴と言ってもいいくらいだが、幼い頃はそれはもういじめられたものだ。
セシルは切っ先をすいと床に落とすと、半眼で皇帝を見据え、言った。
「あなたこそ」
「…何だと?」
皇帝の唇がゆっくりと下がり、そして片側だけが吊り上がった。
頭に来ているのだろう、とセシルは思う。
だがそれはお互い様だ。
「それだけ見目麗しいのだから、幼少の頃はさぞかし女の子と見紛うほどだったんだろう」
「お前こそ、女児と混ざってままごと遊びをしてもさぞ馴染んだだろう。いや、今でも大差ないかも知れんな」
「勿体ないお言葉だ、女性のように美しい方にそう言って貰えるだなんて」
口元には静かな笑みを。
だが、目は両者揃って笑っていない。
僅かの沈黙の後、口火を切ったのはセシルだった。
「大体、口に紅を引いてる人が他人を女々しいだとか言えるのか!」
「貴様がそれを言うか!第一、女々しさを咎められたくないのならその言動をどうにかしたらどうなのだ!」
「ぼくの話し方のどこが悪いって言うんだ、顔は綺麗なくせして性格が歪み切っているよ!」
「貴様の方が綺麗だ!」
「あなたの方が綺麗だ!」
無益極まりない口論が止まったとき、皇帝はすっかり息が上がっていた。
だが、対するセシルも肩で息をしている。
その様を見るに、皇帝は深く溜め息を吐いた。
この状況から再度戦闘に持ち込むのは不可能だろう。
かつ、と踵を鳴らして一歩退がると杖を掲げる。
「この勝負、預けたぞ」
「何の勝負だ」
「無論」
言って、にやりと笑う。
「貴様の実兄に勝敗の行方を訊くとしよう」
「なっ…卑怯だ!」
「何とでも言うがいい」
高笑いと共に皇帝の姿が消え行く中、セシルはただ佇む外になかった。
どうしてだろう。
一度も刃を交えていないのに、負けた気がする。
その後、カオス神殿に戻ると丁度ゴルベーザの後ろ姿を見付けた皇帝は、早速件の質問を投げかけた。
すなわち、どちらが美しいかを。
返答は、全身甲冑の兜の上からでもわかるほどの、虫を見るかのような視線のみだった。
何だかとても、何かに負けた気がした。
仲良し紫唇ズ。
と言うとまるで貧弱仲間のようだ。
タイトルはビューティーアンドビーストをもじった。ビースト不在。
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