「オレ…は…」


掌で顔を覆い俯いてしまったセフィロスに、クジャが驚いたようにたじろぐ。


「な、何なんだい急に!」

「違う…オレは…モンスターだ」

「はぁ?」


眉をうんと寄せるのが指の隙間から見える。
やっと呼吸が落ち着いてきた。
セフィロスは深く息を吸うと、同じくらい深く吐き出した。


「…オレは人の手で、実験によって造られた」


ジェノバの傀儡であるときならば苦でもないだろう言葉が、一つ一つセフィロスの胸を抉る。
ぽっかりと胸に空いた穴から感情がぽろぽろと零れ落ちる。
せり上がってくるそれらが流れ出るでもしてくれればいいものを、セフィロスは泣き方など知らない。
行き場を失くした烈火は頭の中を駆け回り脳を食い破る。
これが熱なのか痛みなのかすら判断出来ない。


世界の全てが劣性種のように感じていた。
自分が特別なのだと。
それは世界に溶け込めない自分への言い訳だったのか、今になってそう思う。
そして、自分の存在が実験の一環でしかないと悟ったとき、自分こそが劣性種だと知ったとき、内に湧いた憎悪。
向けた先は、自分か、世界か。


「何だ、そんなこと」


心底面倒くさそうな声に、ばっと顔を上げる。
クジャはやはり、何でもなさそうな表情をしている。


「そんなこと」

「そうだよ。僕だって似たようなものだからね。嫌な共通点もあったものだ」


ばさりと肩に落ちた髪を跳ね除ける。
クジャはそう言うが、セフィロスに同意は出来ない。
心情が鋭い視線となり、クジャを射る。


「お前の親も、我が子を差し出したのか」

「はあ?」

「実験に、実子を提供するような親が」


そう多く居る筈もないだろう。
愛されない者は在れど、生まれる前から慈愛に恵まれない者など。

クジャは、はん、と鼻で笑う。


「そうか、君は実験に使われたんだ?実の親に見捨てられて?」


言いながら、つかつかとセフィロスの目前まで歩み寄る。
セフィロスが一歩退避しようとしたとき、クジャの手はもう動いていた。

ぱん、と乾いた音がした。
真横を向かされた顔をゆるゆると正面に戻すと、怒りに顔を歪ませたクジャが目に入る。

頬を張られたのだ、とそのとき理解した。


「ふざけるな!人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」

「…言っている意味がわからない」

「君は父親と母親が実験のために作った憐れな子ってわけだね。捨てられたんだろう、おめでとう!最低の両親に恵まれた君はつまり」


クジャが唇を奮わせる。


「人の子なんじゃないか」


荒げられた息が何度もクジャの肩を上下させる間、セフィロスは呼吸を忘れていた。
出来なかったのかもしれない。
やっと吐き出したとき口から漏れたそれは、大量の血液だった。


「う、うわっ!?な、平手打ちしただけだろう、こんな…」


動揺する姿が視界の上の方にちらつく。
気が付けば、地に両膝を付いていた。
腹部が酷く熱い。
忘れもしない、ニブルヘイムで受けた両断に近いほどの裂傷だ。
人としての生を終える原因となった傷。


「くそっ、ふざけるなよ!どうして僕がこんなことを…!」


クジャがセフィロスの傍らに膝を折って、視界が埋まる。
腹部に翳された両の手は回復魔法をかけているのだろうか。

体からぼたぼたと流れ出る液体はどす黒い色をしていて、セフィロスの中で蜷局を巻いていた烈火そのものに見えた。
それは穢れていて、そしてどこか温かい気がした。

震える指でクジャの腕を掴もうとしたが、肘から先がぴくりとも動かない。

癒さなくていい。
塞がなくていい。


もう少しだけこのまま、泣いて、いたかった。








セフィロスに救いを、と思ったものの何がなんだか。
タイトル英綴りは「Dear,(the) other mother」

それにしても、ビンタで吐血するセフィロスとか絵面が面白すぎる。





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