足を踏み入れただけで嫌悪感が募る。
それほどまでにおぞましいところなのだ。

地獄の城パンデモニウム。
その中心に、場にそぐわない程に煌びやかな男がいる。
ガブラスは苦々しい思いで歩み寄った。
気付いたようにこちらを向く顔は、男の自分から見ても絢爛美という言葉がよく似合う。


「皇帝」

「陛下」

「…陛下」


おうむ返しで付け足すと、彼の人物はやっと薄い笑みを浮かべた。
いつ見ても嫌な笑い方をする、と思う。
見透かした上で、見下す。


「何用だ。聞こう」

「ガーランドからの言伝だ。早急に来いと」

「貴様が来いと言ってやれ」


ひらひらと手を返す様に、うんざりと肩を落とす。


「自分で言え。俺は確かに伝えたぞ」


言って踵を返すも、皇帝の声が背中に覆い被さる。


「勅命すら守れんとは、ジャッジというものは粗野者の集合体か」

「何故従わねばならんのだ」

「言葉遣いも改められないときた。育ちが知れるな」


ガブラスの眉が密かに寄る。
そこまで言われて黙ってはいられない。
ガブラスは勢いよく振り返ると、その場に膝を付いた。


「陛下。ガーランドより伝令がございます」


ほう、と皇帝が息を吐くのが聞こえ、ガブラスは垂れた頭の下で軽くほくそ笑む。
ちらりと視線をやると、申せ、と先を促される。


「至急、カオス神殿に向かって欲しいとのことだ。…です」

「……」

「ご足労願う。…えるだろうか、でしょうか」


皇帝は掌で顔を覆い、しきりに肩を震わせている。
ガブラスは羞恥に頬が熱くなるのを感じた。


「それは何だ。お前の田舎の言葉訛りか」

「…貴様の顔を見ると、瞞しの敬意も消え失せるということだ」


立ち上がりながら半眼でねめつけると、皇帝の片眉がぴくりと上がる。
やっと胸の空く思いをして、今度こそ背を向ける。
ガーランドの命に従おうと従うまいと、もうガブラスの知るところではない。
後ろで皇帝が立ち上がる気配にも構わず、一歩を踏み出した。


「うぐっ!?」


途端、体中を駆ける電撃に狼狽する。
だが痛みが四肢を痙攣させていて身動きが取れない。
コツコツと近付く足音が背中でぴたりと止まった。


「注意力も散漫か。救いようがないな」


くくく、と喉を震わすのが聞こえる。
先程の苛立ちに見せた表情すらも、この足元に輝く罠への布石だったということか。

どこまでも姑息な男だ。
そう言ってやりたかったが、喉から漏れるのは苦痛の叫びだけだ。


「まずは、犬の振る舞い方から教えてやろう」


すう、と後ろから声が近付く。
気配は肩を越して、ガブラスの耳元で笑った。
どうせ、またあの嫌な笑みを浮かべているのに違いないのだ。


「体にな。ノア」


ガブラスは己の先見のなさ、至らなさ、そして不遇と。
どれを先に嘆くかを、気の遠くなりそうな痛みの中で考えあぐねていた。








皇帝は多分ダークナイトみたいに扱いたいけど反発されるのでムカついてる。
ガブラスはいい迷惑。




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