掟と秘密のがんじがらめ
 拒もうと思えば、拒めるはずなんだ。キスの一つや二つくらい。だけどそれを掟を理由にして拒まない自分にいらいらする。ひたすら。拒めないんじゃなくて、拒まないだけなんだ。そんな、小さなこともできない自分に、。

 でも、掟さえなければ、俺は彩刃のそばにいることも、同じ学校に通うことはおろか、知りあうことさえできなかったのだ。

 掟、接吻、一日一度。

 掟があれば、毎日キスをして、毎日そばにいられる。だけど、すきだって、漏れそうになって、拒絶されるのがひどく怖くて。
 掟がなければ、接点がない。


(、ぐるぐる、して、きた、)



 10歳のある日、東堂家の現当主―彩刃の父に言われた言葉を思い出した。



(「君は、今日から毎日、私の息子の彩刃にキスをしてほしいんだ。」




 少しの間と、小さな溜息が、その大きな和室に、反響した。



「東堂の一族の直系は、一日一度、接吻をしないといきていけない、」



 意味が、わかんなかった。)



 東堂の秘密。それは―――、毎日一度、キスしなければ生きていけないという体質を、一族の直系が持つということだった。




 
 その体質が現れるのは10歳からで、消失するのはだいたい成人。そのおよそ、10年間。毎日、キスをしなくてはいけなかった。


 東堂の祖先がキスをしなければいきていけないという体質が発見した当時は、一族内で、どうにかそれをまかなっていた。

 キスしないといきていけないなんて、化け物みたいだ、と、彼ら自身さえも思っていたからだ。もしも、これが、何も知らない人―大衆や社会、それらに知られれば、「化け物」扱いされるであろう、と、危惧したからである。

 だからこそ、東堂の親族内で、その体質が現れた者同士、たとえば、兄弟や親など同士でキスをしていた。

 が、

 
 ある時の当主は、成人するまで女中とその体質をまかなっていた。かたや名家の当主、かたや、ただの女中。

 いつのまにか、二人は恋に落ちていて、許嫁と、婚約をすることが嫌だった当主は、逃げ出した。いわゆる、駆け落ちだ。

 そして、二人はそのまま海に飛び込んで死んだ。女中以外、彼女以外と結婚するなんて、想像できない。そんなことを書き並べた遺書だけが、見つかった。


 それからは、異性同士でその体質をまかなえば、あらぬ感情を抱く可能性があるとして、同性間で行うことになった。そして、一族内で行うことも禁じられた。親や兄弟。それらで行われることが禁じられた。


 一族外で、秘密を知っている者。



 ――灯野家だ。


 駆け落ちした二人が飛び込んだ崖で、遺書を最初に見つけて、中身を読み、秘密を知ってしまった灯野家当主。そして秘密を知っていることを、東堂家当主に知られてしまった。

 あとは簡単。名家の東堂が没落寸前の灯野に交換条件を申し込んだだけだ。立場を保証する代わりに、以後の秘密の犠牲となってもらうように。


 それから、東堂の直系の体質がでた者に、灯野の直系の同性の者が従者として仕える。そんな関係が、できてしまった。そして、それが続き、問題なんておこらず、今に至る。



 よって、次期東堂家当主―東堂彩刃と、次期灯野家当主―灯野譲刃の関係は、少々歪んで、いびつな、主従関係なのだ。



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bkm


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