伝えることは、難しい。
関係が壊れてしまうのを、俺は極度に恐れていたからだ。
主従関係でつないでいたそれは、今はもうない。
じゃあ、もう、恐れるものなんて、きっと、何もない。
「前に進もう」
彼女の言葉が脳裏に反復する。
「すき、って。言おうよ」
目の前の妹が、泣きそうな顔して笑う。
前に、進む。
彼女が言いたいことの真意は分かっている。だけれど、俺にはそれはとうてい臆病すぎて、手が届かない結論なのだ。
俺には勇気もなければ、確信もない。そして、恐怖だけを抱えている。関係なんてとっくに崩れている。彼が、彩刃の言葉の意味は分からない。だけど、まだ、掟にすがっている、自分がいる。ああ、ああ。
(でも)
今日からはもう、接吻なんてしなくていい。
つまりは彩刃といられなくなる。
―――じゃあ、もう。
どっちにしろ、関係は破たんしている。
(もう、主従関係はおしまいだ。)
すがっていた掟はもう、ない。
よりどころにしていたものはない。
答えは一つ。結果は一つ。結論は、一つ。
「なあ、拾刃」
踏み出す。
怖いけど、怖くて、足が震えるけど。
彩刃と一緒に笑いたい。
この先ずっと、難しいかもしれない。というか、無謀だ。
(だけど)
壊れた関係を修復しようなんて思わない。新しい関係を、作ればいい。
「俺、ちゃんと言うわ」
目の前で笑う妹と、昨日泣きながら見送ってくれた彼女。
俺は、彼女たちよりも弱いけど、進めるだろうか、いや、そうするしか、ない。