(たとえばそれの差出人が君だったら、)
朝学校について、下駄箱を開けたときに入っているかわいらしい便箋をみつけた。両面見ても、そこには宛先だけが書いてある。
「東堂、おはよー」
宛先に書かれた自分の名前をクラスメイトに呼ばれて、俺は思わずそちらを向いた。
「おはよう」
「お、東堂やっぱもてるねー」
手に持った便箋。
それを指さして言われた。
「いや、そんなんじゃないよ」
「謙遜すんなよ王子様」
「ちがうって」
俺は王子様、なんてものではない。ただ臆病なだけだ。怖いだけ、関係が崩れてしまうことが。
「そういえば今日、灯野は?」
お前らいつも、一緒に学校来るだろ?
―――たとえば、それの差出人が君だったら、
「先に行ったはず」
「珍しいな」
何度考えただろう。
もし、君が手紙を書いてくれたら。
そんなことは絶対にありえない。
君はただ、今の役割が明確なその関係が崩れないことを望んでいる。
俺は君とのあいまいな関係が崩れてしまうことが怖い。
(そうだ、ただ、単純なこと。君に拒絶されることが死ぬほど怖い)
―――"今日の放課後、屋上に来てください。"
君だといい。君であるはずはないけれど。
「東堂?」
そういわれて、はっと我に返った。
「今行く」
前に踏み出すことは怖い。
(でも、)
きっともう後戻りは、できない。