本文はたった一言、"朝、屋上につながる階段で"。
朝、起き上がって、そのメールが来てることに気付いた俺は急いで準備をした。久しぶりに来た黒い学生服は、なんだか少しだけ重たい。
「いってきます」
一人で、学校へ行くのは、いつぶりだろうか。
その答えは、彩刃と出会う前なのだけれども。
赤色のハイカット。それをはいて、俺は一人で歩きだした。
「なんか、久しぶりだね、譲刃くん」
「確かにな。…花木」
屋上につながる扉を背景に、そこから延びる朝日は彼女を照らしていた。ぽかぽかとした笑顔が特徴的な彼女にぴったりだと思った。
「あのさ」
「私は譲刃くんがすきだよ」
彼女は、笑う。
「譲刃くんが、東堂くんを好きな意味と同じ意味で、私は譲刃くんがすき」
彼女は、ただただ、笑っていただけだった。
俺は、どんな顔をしているだろうか。
「東堂のことがすきなんじゃねえの…?」
首を横に振る。悲しげな顔。
「それは、譲刃くんに近づく口実」
階段の踊り場に棒立ちしている俺の目の前まで階段を下りて、彼女は俺の頬を流れる涙をぬぐった。
「だって、最初から譲刃くんが東堂くんのことすきだって、知ってたよ。ずっと、譲刃くんを見てたから、だから、譲刃くんの目が東堂くんに向かってることくらい、簡単にわかったよ。私には、ね」
恋ってそういうものだよ。だから、譲刃くんは、私に対して何もしなくていいんだよ。
「ねえ、譲刃くん」
なんで、女の子ってこんな強いのだろうか。
笑う彼女を見て、俺はなんで泣くことしかできないのだろうか。
「前に進もう」
何を、どうやって。
「それは、譲刃くんが考えること」
チャイムが鳴る5分前。俺はただ、立っていた。