キス
 五時間目も六時間目もさぼった。
 教室に帰りたくなかった。

 ぼうっと、屋上の風に当たりながら考えた。

 普通ならば男ならば、告白されればうれしい。だけど、俺は苦しくて仕方なかった。だって、断らなければいけないからだ。それは必須。

 だって、東堂が、。


 でも、見込みないじゃん。同じ男。主従関係。あとは、花木。俺って一体なんなの。優柔不断で、ねちねちしてて、なんで、なんで。


 帰りのSTが終わるチャイムの音が鳴る。教室棟から椅子を引きずる音がした。みんな立ちあがって、帰り始める。荷物は教室。ならば一度戻らなければいけない。それに東堂と帰るのは義務だ。人が少なくなったころに帰れば、いいか。そう思った時、着信音。携帯電話は幸い、制服のポケットに入っていた。メールだった。

(どこにいる?荷物持っていく…ね)

 東堂からだった。この優しさがうれしくてたまらなかった。

 屋上です。わざわざ申し訳ございません。そう、送った。メールは当主様に見られていいように敬語で打つようにしている。


 メールを打ち終えて、携帯電話を放り投げた。フェンスによりかかって、空をぼんやり眺めていた時だった。屋上の扉が軋む音がした。やばい、こんな姿見られたくない、と思ったが、彼女の姿で、安心する自分が居た。


「花木」
「教室の廊下から姿、みえたから」

 確かに、丸見えだ。でも、授業中は見えない位置にいるようにした。でも日差しが悪かったから、さっきこっちに移動してきた。


「悪い」
「私が来たかったから来たんだよ」

 でも、俺と付き合ってるって、誤解されてるよ、花木。

「あのさ」
「うん」
「告白されたんだって?」

 もう、回ってるんだ。

 俺は花木の言葉にうなづくしかなかった。


「譲刃くんは悪くないよ」
「…でもさ、」
「違うよ。女の子も、私が勝手に泣いただけだからって、言ってた」
「花木」
「うん」
「俺と付き合ってるって、勘違いされてる」
「別にいいよ」
「なんで」


 顔が近づく。
 あ、キス、される。






「何してんの」



 屋上の扉が開いた。



「東堂くん」



 荷物を持った彼は、そのままそれを床に放りつけた。どすん、音が、コンクリートにしみる。近づいてきた彼は俺の胸倉をつかんだ。俺は彼に立ち上がらされていた。花木は彼を睨みつけていた。そして、東堂も、花木を睨む。

「とうどう?」
「うるさい」


 噛みつかれた。唇に。俺の四肢の自由はなかった。強い力で彼に拘束された。とたんに深いものに変わる。息が上がる。血が上る。力が抜ける。涙が、滲む。

 解放されたときには、俺は、彼にしがみつくしかなかった。理性が戻るころには、花木が見ていたことを思い出した、なんで、彼は、彼は。

「やっぱりそうなんだね」


 花木が小さくつぶやいた。
 そして、彼に向かって笑っていた。


「そうだけど、何」

 彼は確かに、花木の方を見ていた。俺の腰に手をまわしている彼は。


「わかってたよ」
「わかってんなら、ちょっかいだすなよ」
「あれ、王子様、口調崩れてるよ?」
「勝手に言ってろ」

 彼は花木を一瞥してから、俺の腰から手を離したかと思えば、「帰るよ」と一言つぶやいて、俺の荷物もろとも、拾い上げた。扉を蹴破るように屋上をでた。


「はなき」


 彼女は、俺に対して微笑むだけ。
 だから俺は屋上を後にした。


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bkm


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