保健室じゃないよな。どう考えても。
気がついたら風紀委員室のソファーに押し倒されていた。
何この状況。意味が分からない。
洗濯するからっていって、制服のブレザーとカッターシャツは濡れていたから脱いだ。で、今上半身だけ裸。ズボンも濡れていたから脱ごうと思ったらこれだ。どういうことだ。確かにここはホモが多いが委員長が俺みたいな平凡相手にするわけないって油断したらこれだよ…!
「あの…」
「俺、お前みたいな平凡すきなんだよ」
「はあ?」
「すっげえ平凡が一番興奮する。超なかせてえ…!」
「はッ?!」
これは本格的にまずい。俺童貞なんだけど。処女解体からするとか男としてない。だけど力も体格も全然違う。俺は帰宅部。もやしだ。でも相手は違う。不良を相手にする泣く子も黙るあの鬼の蜂屋要だ。無理無理無理無理無理。RPGで言うと魔王でしかない。マジついてねえ。何もう何。あきらめろってか?!
「無理です無理です無理です、俺ノンケです!」
「そんなの関係ないくらいきもちよくさせてやっから」
「ぎゃああああああああああああ!!!!!!」
ベルトのバックルを外され始めた。あああああああもう終わった。やばい、ごめん黒井!ノンケってことで意気投合して3年間ケツ守ろうぜっつってたのに守れねえわ…!ああ、まずい。まずい。スラックスが膝まで下げられて、ボクサーが丸出しになった。もまれた。思わず変な声をあげた。
「その顔」
「ひいっ?!」
「なかせてえわやっぱり」
もう無理もう泣きそう。いろんな意味で。マジ誰か助けてほしい。ほんと、誰でもいい。このさい、誰でもいいんで、マジで――!
ボクサーに手をかけられた時はもう涙目だった。おわった、そう思った時。
「委員長、いますかー?」
部屋の扉が開いた。
「しろ、せ…?」
城瀬が居た。
手には書類。
「…倉科?」
俺を見た瞬間、俺の上に乗っていた委員長の胸倉をつかんだ。壁に委員長を押し付けたかと思うと、どん、と大きな音をたてた。
「何してんですか、委員長」
「わりぃわりぃ、好みドストライクだったからつい…!」
「ついじゃねえですよ」
「敬語崩れてるって、城瀬」
「ほんと、何、いみわかんねえんだけど」
城瀬は委員長の胸倉から手を離した。委員長はそれと同時に部屋からでていった。
ソファーに座る俺と壁を見つめる城瀬。
「何が、あった?」
いつもの何倍も声が低い。こんな低い声でんだなあ。と思った。
「みそ汁こぼされて…」
「だから服着てないわけね」
「まあ」
「ソファーの後ろのカラーボックスに俺のジャージ入ってる」
「ああ、ありがとう」
俺は立ち上がりカラーボックスから"城瀬"と書かれたジャージを取り出して、それを着始めた。それを見た城瀬は俺の制服を持ち上げると、そのまま「洗濯かけるね」、と風紀委員室の隣にある小部屋の方へ持っていった。
城瀬が戻ってきたときには、俺は城瀬のジャージを着終えていた。若干サイズが大きく、手の先が出ない。ズボンは引きずるため、ロールアップした。そんな俺の姿を見た城瀬はなぜか固まっていた。いみがわからん。
「なにって、え?!」
城瀬の手が俺の後頭部と顎に回ったかと思えば、あのパターンだ。城瀬の背中をたたくも、逆効果。舌が俺の口内に入ってきたところであきらめた。この間のがファーストキスっていうわけでもない。もういい。俺はされるがままになっていた。
「は、」
やっと解放されたかと思えば、次は頬、額、首。色々なところにかまされる。顔中だ。ありえない。ありえない。これ、どういうこと。ありえない。ありえない。
「…あー、」
城瀬がそんな声を漏らしたかと思えば、顔を両手でかくしてソファーに倒れこんだ。「ごめん」小さく言った。隠れていない耳を見れば、ちょう真っ赤だった。
「…城瀬って結構ウブ?」
「…委員長にも言われた」
「俺てか、授業受けるから帰る」
「あー、わかった」
風紀委員室からでようと扉に手をかけた時だった。
「倉科」
振り返れば、起き上った城瀬は、窓の外を見ていた。表情は分からない。
「ごめんね」
意味が分からない。言動も行動も、思考も。