「お、久しぶり」
「久しぶりでしたっけ…」
「授業中にはな」
「あ、そうですね」
風紀委員室の扉をあけると、扉に正面を向けた席で委員長が座っていた。まあ、そこは委員長の席なのだから当然なのだけれども。
「他の委員は?」
「真面目に授業でてんぞ」
「そりゃあそうですよね」
俺と委員長は基本的に授業中に"特権"を乱用して仕事をすませてしまう。そして放課後に親衛隊の子を適当にひっかける。そのままやることなんて1つ。だから委員長も俺も、放課後をそんな使い方がしたい時は授業をサボるのだ。
すなわち、委員長も俺も今日の放課後そういう使い方をするってことなんだけども。
「なんでしばらくヤってなかったんだ?」
「あいかわらず直球ですね」
「お前に対してオブラートに包んでも仕方ないだろ」
俺は、あはは、と笑いながら自分の定位置につき、自分の仕事として振り分けられた書類に目を通し始めた。
「好きな奴でもできたか?」
耳を疑った。
やっぱり俺って分かりやすいんだろうか。
「あーでも、全然だめですよ」
「お前でだめって」
「なんかしゃべると眉間にしわよせてくるんですよ」
「ツンデレ?」
「そんなんじゃないです、純粋に嫌われてる感じです」
「よっぽどモテんだ、そいつ」
「いや、いい意味ですごく平凡なんですよね…」
「は?」
「ギャルゲーの主人公みたいなスペックですね」
「…へえ」
委員長のパソコンからタイピングする音が風紀委員室には響いた。委員長は左手にコーヒーカップを持ち、そのまま口へ運んだ。嚥下する音が俺の耳に届く。かちゃり、と、皿の上にカップを置く。
「お前何したんだよ」
「いやあ、何もする前から嫌われてて、でもちょっとキスしちゃったらもっと嫌われちゃって」
「お前が?」
「だめですか」
「キス嫌いとか言われてなかった?」
あー。
「キスは、好きな人とだけしたかったので」
委員長の顔は豆鉄砲くらったみたいな顔してた。ぽかーん。そのあと急に笑い出したかと思えば、机をたたきながら大爆笑。そんな、漫才番組見るノリで笑わないでほしい。結構真剣だったのだけれども。
「お前結構ウブだったんだな…」
「ひどくないですか」
あの噂、そんなかるいもんだったのかー。と委員長は呆れた顔でつぶやいた。
俺はひどいなあ、と思いながら目下の書類にペンを走らせ始めた。
しばらくの沈黙の後、授業が終わるチャイムが鳴った。俺は今日の分の書類がまだ終わっておらず、もう少しやっていこうと思った時、委員長が席を立った。
「鍵頼む」
「分かりました」
背伸びをして、委員長は俺の横を通って、委員室から出て行こうと扉に手をかけた時だった。
振り返って、一言。
「…相手の名前、何?」
なんで、この人の性癖忘れてたんだっけ俺。