城瀬にキスされた。
俺ノンケなんだけど。
ってか、ちょう、きもち、よかった。
あれ、つーか、城瀬、キスうまいじゃん。
でも、城瀬ってキスしないんじゃなかったっけ。
城瀬奏太の唇は、聖域じゃ、ありませんでしたっけ…?
脳みそは、正常に作動しないようです。
寮に帰ると、部活が速く終わったらしかった黒井が、玄関に倒れこむ俺を不思議そうな顔で見つめながら、机の上に2人前のチャーハンを用意していた。
ぐるぐるぐるぐる。
脳は激しく運動していて、熱暴走しかけていて。
「くろいー」
「どうした、チャーハン不満か?」
「ちがうー」
「じゃあ、何」
「…しろせに、キス、された」
がちゃん。
チャーハン1人前は、カーペットの上に墜落した。
黒井に詳細を詳しくはなせば、信じてもらえなかった。
「それ、暗いし、城瀬じゃないんじゃない…?」
「だって、声とか完璧、城瀬」
「…いやだって、城瀬に限って…。だって、学園のマドンナの宮沢先輩がキス迫ったって、しなかったっていうのに、なんで、中の上の倉科にキスするんだよ。つじつま合わなくね?」
中の上。
黒井のもうすでに死んでる脳細胞に向けて平手打ちをかませば、「あだっ」なんて、色気のない声が飛んできた。
「とにかく、城瀬だった」
そう、言えば、黒井は黙りこんでしまった。
そんな黒井を見ながら、俺は溜息をひとつこぼすと、机の上に並べられている一つのチャーハンにスプーンをつっこんだ。
「おはよう」
「……」
朝、城瀬はなぜか朝から教室に来ていて、俺にそう、声をかけたが、さらっと無視した。眉間におもいっきり、しわをよせたまま。
なんで、キスしたわけ。
つーか、なんで、俺?
それが、疑問だった。だって、俺よりかわいいやつ、かっこいいやつは、この学校には、この教室にすら、めちゃくちゃいっぱいいて、その中でなんで俺なんだ。意味がわからん。お前ならえらびほーだい、よりどりみどり。それをなんで、俺みたいな、平凡?確かに、中の上で、あとは少しきれい系の平凡だとか言われるけど。平凡だぞ?不良クラスの委員長なんていう、ろくでなし。書類は結局締め切り破るような。なんで、俺?いみがわかんない。いみがわかんない。つーか、考えたくない。寝よう。ああーでも、寝れない。目が覚めてる。でも昨日も教室でしか寝てない。だけど、寝れない。ああ、もう、くそ、城瀬め。
数学の授業中、ふと、城瀬の方をみれば、その存在は、そこにはいなくて。1限の現代文の時間には居たのに。
購買に黒井と行く途中、廊下の壁に寄り掛かって、ふくそうしている、人。右腕には腕章。風紀の文字。ネクタイは2年の色。ああ、城瀬だ。
派手なオレンジの髪をしたやつに対して、職質まがいのことをしている城瀬。その横を、購買に行くために通り過ぎようとした時、確実に、目があった。むかついた。通り過ぎるざまに、腹が立ったから、脛を蹴ってやった。
表情は変えずに、言葉も詰まることなく、オレンジ頭の不良に向けられているが、視線はこちらにむけていた。はは、ざまーみろ。