目が覚めると、真っ白な天井が視界を覆った。ここはどこだろう、と冷静に考えて、俺は制裁をうけていたことを思い出した。草が生い茂ったあの場所ではない。じゃあ、俺はどうやってここに来たのだろうか、そう考えたところで声がした。
「くらしな…?」
黒井だ。
「先生!倉科目ぇさました!!」
「医務室では声を小さくしてね、黒井くん」
保健室のベッドに俺は寝ているということにその会話を聞いてわかった。隣では黒井が泣きそうな声を漏らしている。
「倉科、大丈夫か?」
大丈夫、と言いたいのはやまやまだが実際大丈夫ではない。
体を起こそうとした瞬間、体全身がきしむように痛かった。特に腹部を中心に激痛が走る。
「だいじょうぶ」
「じゃないよな…」
「でも、黒井が心配することではない」
「なんで?」
だって俺が倉科が親衛隊に連れていかえたことを知っていればもっと早く風紀委員に報告できたはずだから、と、そこまで言って黒井は涙ぐんでしまった。
「悪いのは制裁したほうだから、黒井はなんもわるくねえよ」
「でも…」
「心配してくれて助かる」
そういって、あまり動かない表情筋を動かせば黒井はわんわんと泣き始めた。黒井の頭を撫でようと手を伸そうとしたが手が動かなかった。痛かった。ああ、いたいな。
「倉科くん」
丸椅子に座っている黒井の後ろで立っている保険医がふと俺に声をかけた。
「念のために精密検査受けるから、このあと担任の先生と一緒に病院に行くからね」
「わかりました」
「担任の先生が来るまでもうちょっとかかると思うから、しばらく安静にしてて」
「はい、ありがとうございます」
そういうと先生は俺ににこり、とほほ笑んだ。そのあと少しのまをあけてから先生はいきなり神妙な顔つきをした。
「そういえば、2Jだよね、二人とも」
「あー、そうですね」
黒井が答えた。
「いやあ、不良に見えないけどね」
「実際不良じゃないですし。話せば長いですけど」
「あ、そうなんだ。じゃあ今度聞こうかな」
「…でも誰に2Jって聞いたんですか?」
黒井が先生と受け答えしながらそんな質問を投げかけた。俺だって先生にクラスなんて言ってないぞ。
「あ、言ってなかったね。倉科くんのこと、城瀬くんが運んできてくれたんだ」
―――は?
「すごいせっぱつまってて、あんな焦ってる城瀬くんはじめてみたから、びっくりした」
先生は俺のことを関心したような目でみていた。黒井もほへー、とおもしろそうなものを聞くような顔。
頭の中が、まっしろになった。
「仲がいいんだね」
「…なんでですか?」
そんなことを俺に言われると想定していなかったのか、あれ?とでも言いたげな顔をしていた。だけど、次の瞬間俺は本格的に脳みそが破裂しそうになった。
「城瀬くん、泣いていたから」
城瀬が、――泣く?
なんで俺のためになんか泣くわけ?ただのクラスメイトじゃねえか。つうか俺、城瀬のことちょうきらいですアピールしてた。なのになんで、泣いてくれるわけ?わからない。意味が、まったく。全然。わからない。
脈絡がない。
まったくもって。
なんで俺にキスした?なんで、なんで?
疑問しか出てこない。そうやって答えの出ないことばかりを自問自答していて、頭はパンク寸前。
悩んでいる俺を傍目に保険医と何かをしゃべっている黒井は、俺の担任が迎えに来るまで一緒にいてくれた。