きずく
 4限目の授業を出ておけばよかった、と心底思っている。

 3,4限と俺は風紀委員室で仕事をしていた。俺は委員長となんとなく顔が合わせづらく、(委員長もおそらく俺とかおがあわせづらい)放課後に仕事をするのはためらわれた。

 4限目の途中に俺は仕事をおえて、そのまま早い昼食を食べた。風紀委員室でむしゃむしゃとイチゴクリームパンを食べた。甘い。

 昼休みの間の1時間はぼう、っとしながら過ごした。ソファで寝た。でも思い浮かべるのはあいつのことだった。ああ、たちそう。キスしたい。ああ、ああ。なんでわかってくれないんだろう。すきだって、全身で表してこれだ。ああ。もう。

 顔が見たくなった。
 だから、5限目の授業に出た。


(…いない?)


 でも相棒はいる。
 ふと振り返って黒井のほうをみると、ルーズリーフにマッキーで書いた文字をこちらへ見せてきた。



 "昼休みに倉科が委員長の親衛隊に呼び出されてから帰ってこない。倉科しらない?"



 ふと思ったことは、委員長の親衛隊の活動が活発しているということだった。おそらく制裁だが、ターゲットはわからない。まだ手はだしていないらしい、ということ。まだ呼び出しにとどまっているからだった。だけど、ターゲットなんて簡単にわかる。俺ってつくづくバカだと思った。委員長にあいつが平凡だって言ったこと。だからこそ委員長が襲った。(未遂だけど)


 次は、制裁か。



 気が付いたら立ち上がっていた。授業中ということも無視して、俺は廊下を走る。黒井が俺を呼ぶ声が聞こえたけど、まずい。まずい、まずい…!




 制裁でよくある校舎裏に急いだ。すでに5限目がはじまって30分たっていた。ばかでかい学校のデメリットはこういうところにある。


(くらしな、)


 無事でいてくれないだろうか。



 そんな願いはかなうことはなかった。
 校舎裏で最も暗く、茂みが多い場所だった。雑草も木々も生い茂っており、人が倒れていると簡単にわかる場所ではない。ああ、くっそ。


「倉科!」


 土の上で丸くなっているのは確かに思い描いていた彼の姿だった。
 近づくと、彼が気絶していることがわかった。顔は傷つけられていない。だけどブレザーは土まみれでぼろぼろ。ためしにブレザーとカッターシャツをめくってみると、傷だらけ、あざだらけだった。これは気絶して当然だった。ああ、くそ。

「くらしな、」

 倉科。倉科。倉科。

「灰哉」

 


 できるだけ彼を傷つけないように、彼が目が覚めたときに嫌がるかもしれないが、彼を横抱きにする。思った以上に軽い体重に不安になった。こんな小さな体で殴られていたのか。

 ああ、くそ。俺は、風紀委員じゃないのか。未然に防ぐためにいるんじゃないのか。


 あ。




 もともとこの状況を作ったのはだれかということだ。


 委員長の親衛隊がこれを指示した。委員長の親衛隊がなぜ倉科を制裁したかといえば、味噌汁を委員長が倉科にぶっかっけて、腕をひっぱられて委員室まで連れて行かれたからだ。でも委員長は倉科の平凡な顔に性的欲求を感じて味噌汁をわざとかけた。事に及びたかったから。じゃあ、なぜ倉科を委員長が知るきっかけになったか。それは委員長がデータベースで名前を調べたときの顔を見てヤりたいと思ったから。じゃあなんで、名前を知っていたか、俺だ。

 俺が委員長に言いさえしなければ、こんなことにならなかったはずじゃないか。


 校舎の中に入ったとき、医務室に向かって小走りに廊下で急いでいる俺に、いつのまにか休憩時間になって周りの生徒から聞こえた声。
 横抱きにされて、ぐったりしている倉科。



「平凡が城瀬様になんでだっこされてんの」



 足が止まりそうだった。
 俺は普段制裁をみかけたときはほかの委員に連絡して担架で運ぶ。倉科だったから、だ。


(俺がもう一度倉科を、傷つけかねない。)



「怪我人はこんでんだよ」


 思わずつぶやいた声を、どれだけの生徒がうけとっただろうか。一瞬でしん、とする廊下を足早に医務室に向かった。


 俺と倉科は違う。
 


(俺が倉科を傷つけないためには、)




 答えはすぐにでた。あっさり。



「…城瀬くん?」


 医務室に着いて、先生に処置を頼み、彼をベッドに寝かせたとき、先生が俺に声をかけた。




「なんで泣いてるの?」




 俺が悪いからだよ。


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bkm


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