「マジなんなの?!」
それはこっちのセリフなんだが。
倉科灰哉(17)、人生初の制裁中です。
委員長ミソスープダイブto俺事件の後から、委員長の親衛隊のかわいい男の子たちからガチムチ男子まで。いろいろな人にどういうこと?!と、言われ続けてます。ぶっちゃけつらい。でも暴力行為は出されていない。まあ、だいたいの人は話せばわかってくれるような人だったからだ。だけど今回はなんかちがう。
「アンタが委員長の手すべらせたんでしょう?!」
この人の言い分としては、俺が委員長と関わりたいだけのために自分から味噌汁をこぼさせた、というわけだ。その妄想力を非常にほめたたえたい。
「いやだからちがいますって…」
「じゃあなんだっていうの、委員長が味噌汁こぼすわけがないでしょう」
こぼすだろ。
味噌汁くらい。
まったく俺の言い分なんてこいつら聞く気ないんだな、と思った。溜息をついたらすげえ睨まれた。いい加減解放してほしい。今は昼休みだ。そして俺は4限目のチャイムがなった瞬間に俺の教室に入ってきたこいつのせいで、いまだに昼飯を食べていない。これがあるってわかっていれば、早く食べていたのにちくしょう。
「アンタきいてんの?」
きいてません。
「あーちょううざい、みんな、やっちゃってよ」
…これは?
後ろの茂みからすげえがたいのいい男の人が何人も出てきた。(ぶっちゃけ俺は2J…つまりは不良クラスに在籍しているため目だけは肥えている。こわくはない、けども)
「なぐっちゃってよ、じゃあ僕ごはんたべてくるから」
俺は2Jだからといって喧嘩が強いわけでは全くない。普通の高校生男子(童貞)は喧嘩なんてほとんどしたことがないはずだ。殴ったことがあるといえば兄弟くらいだろう。ちょっとまて、これは、ない。
「…俺、なぐられるんすか」
「何言ってんのおまえ」
うん、俺も思う。
とりあえず。
「おい、追え!」
足だけは少しだけ自信がある…なんてわけもなく、とりあえず、人が多いところまで走ろうと思う。
「あー」
体力の限界を感じる。
だけども後ろからばたばたと音がする。
逃げないと、殴られる。痛い、無理拒否却下。
でも、まずいかも。
「うおッ?!」
ブレザーの裾をつかまれた。それにつられて俺は土の上を思いっきり転がる。これだけで十分いたいけど、この先にまっている痛みは計り知れないだろう。
「…マジ?」
「さー、思う存分、痛がれよ?」
「気絶すんのはなしで、おもしろくないから」
土の上に転がる俺を囲むように5人の腕っぷしの強そうな生徒が立っていた。ああああああ、まずいまずいまずいまずい。
「おらよ」
軽く言われたものの、俺は一発腹をけられた。絶対青くなってる。
「あ、顔はやんなよ」
「わーってるって」
「あと、骨はやるな。バレる」
「手加減しろってことすか?できっかなァ」
四方八方からけられる。ああ、うそだろ。うそだろ。
遠くのほうでチャイムが鳴った。5限目がはじまる。でも俺の耳のそばでは下品な笑い声が響いていた。耳鳴りがする。ああ、気絶できれば、ラクになんのか。
おれがなにしたってんだよ。
いてーんだよ、ばーか。
脳裏になぜかあいつの顔がうかんだ。風紀委員室であったことを思い出した。あいつは、あの時みたいに、俺を助けてくれないのだろうか。むりか、無理か。ああ、なんて、女々しいことばかり考えてしまっているのだろうか。
解放されたとき、俺は体中土まみれ。傷だらけ。動けずにいた。土の上で丸くなる俺は、自然と泣いていた。俺の貧相な脳みそのキャパシティはもうとっくに超えている。
声も出ない。立てない、1ミリも動かせない。
なんだよ。ああ、くそ、ちくしょう。俺は何をした?なんもしてねえ。ただすわってごはん食べてただけ。だけど、何。何。何?なんでこんな痛い思いしなくちゃなんねえわけ?俺は、
数日前もこんなことを延々と考えていたことを思い出した。なんで俺は、あいつにキスされたんだ。俺は何もしていない。ああ、ああ。ああ。
なんだか、眠くなってきた。
遠くで俺の名前を叫ぶ声が聞こえた気がしたけど、きっとそれは夢の話。