きもちわるい
 春。


 校門やグラウンドの周りにはたくさんの桜の木が植えられていた。だが、山の中という立地なだけあり、まだ雪も残る冬景色の中、入学式は行われた。


 ――私立桜ヶ丘学園。


 入寮してから一週間も経っていない。だけど、姉から聞いたことはたいていあっていることは分かった。


 初等部からの全寮制男子校であるため、思春期に異性と触れ合う体験をしないことが原因でそのフラストレーションを同性にぶつける。つまりは、恋愛対象がせいぜいこの学園にいる間は同性ということになる。

 入寮してから入学式までの数日間、食堂や大浴場などを使った。(風呂にシャワーと簡易キッチンはある)その時に思い知ったことは、自分より背丈が低く肌の白い同性に声をかけられた。「かっこいい」だの「見たことない人だね」だの、中学の時に女子から言われていたことを、同性が言っていた。つまりは、そういうことなのだろう。痛感した。



 (俺は本当に、同性をすきになるのか、?)



 疑問に思ったことはそれ。
 でもいまさら後戻りはできない。




 


 入学式を終え、教室へ向かえばエスカレーター式ということもあるのだろうか、だいたいが集団で談笑していた。そんな中俺はひとりで席に座った。「だれ?」飛んでくるのはそんな声。担任が教室に入ってくると同時に、散るようにクラスメイトは各自の席に座った。


「小野寺湊です」


 今年入学した外部生は俺を含めるとたった10人らしい。ほかは全員もちあがり。だから担任は俺を前によんで自己紹介させた。(つまりは外部生はこのクラスに俺だけということになってしまうのだが)

 よろしくー、という声と拍手が教室中からとんできた。ああ、楽しそうなクラスだ、あたりだ。と、俺は心の中で思って、「よろしくおねがいします」と笑った。




 (友達、できるといいな)









 5月。
 GWが明けたくらいだった。



「すきです」



 入学してから、5人目。
 5人とも同じクラスの男子だ。



「そういう目でみてないから、ごめん」



 なるべく愛想よく、クラスの人たちと接した。そうすれば彼らも俺に話しかけてくれる。打ち解けた?友達になれた?そう思っての矢先、一人目に告白された。かわいく、中性的な容姿の男の子だった。でも、そういう目で見ていなかった、断った。で、それが結局今まで続いている。で、その4人の男の子たち狙いだった男の子もいるわけで、そいつらから白い目で見られている。「かっこいいからってなんだよ」何もしてねえじゃねえか。何?じゃあ、愛想よくしたらだめっつーこと?あああ、もう、いみわかんねえ。


「ねえ」
「何?」
「じゃあ、最後にキスさせて」
「…は?」
「そしたらあきらめられるから」


 俺のブレザーをつかんで、上目使い。


「…キスしたら、あきらめんの?」

 そう聞き返せば、目の前の彼は恥ずかしそうに赤面しながらうなづいた。(男がすると、)


 早く終わらせよう。そう思った俺は俺より10センチほど身長の小さな男の子の頬に手を添えて唇と唇をくっつけた。すぐに話そうとしたが、目の前の彼は俺の手首をつかんだかと思えば、舌をいれてきた。

(う、)

 寒気が走る。鳥肌が止まらない。やめてほしい。早くおわれ。おわれ、おわれ、おわれ…!


 やっと解放されたと思えば、お互い息があがっていた。高潮する頬。赤い唇。目の前の彼は俺から少し離れてから笑顔でいった。



「小野寺くん、じゃあまた教室でね」




 あきらめてくれんじゃないの?




 残された俺は億劫でしかたなかった。近くの水道で水を飲んだ。口をゆすぐ。気持ち悪いあの感触を一刻も早く消し去りたかった。


 あれ。


 俺、女の子にたたなかったから、ここきたんじゃなかった?


 
 でも、今のは確かに気持ち悪かった。もうあんな経験したくないとさえ思った。ちょっとまて、じゃあ俺はどういうこと?なんで、何しにここきた?男も女もだめ?勘違い?


 なんだ、それ。





 教室に行くのが、憂鬱で仕方ないと感じた。

 今はひとりになりたかったのと同時に、今キスした彼がのうのうと授業をうけていると考えると吐き気がする。



(あと3限のこってる…)


 今は昼休み。4限目まで終わった。うちの学校は55分授業で7限目まである。






 結論、午後の授業はサボタージュ。


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bkm


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