舐めとって、雪。
 俺の家は代々女系一家で、女の子が多く生まれる。そのうえ、職業柄、女を跡取りとしており、婿養子を入れる。だから、その中で俺は異質だった。病弱な母が俺を生んで、すぐに死んだ。だから跡継ぎはもう産めない。だけど生まれたのはあくまで「俺」で「男の子」だ。女の子ではないのだ。男の子なのだ。

 それから俺は「女の子」として生活をした。俺は女の子だと、幼いころから植えつけられていて、俺は女の子であると信じて疑わなかった。だけど、男の子と自分がわかった時、妙に納得した。幼稚園の頃だった。ほかの女の子たちは人形遊びをしているところ、俺は、外で追いかけっこしてるほうが楽しかった。おかしいな、って、思って。でも、気付いた。納得して。ああ、怖かった。俺は女の子ではなく、男の子だ。そして、俺は、女の子として生きていかなくてはならない、という事実に。

 身体測定はもちろん欠席。体育も欠席。宿泊学習とか修学旅行なんて一回もいったことない。だって、ベレんじゃん。男の子だって。だから、祖母が許してくれなかった。本当は野球やサッカーをしていたのに、女の子と一緒におしゃべりや自由帳にかわいらしい絵を描く日々。好きな色は?と聞かれれば、ピンクと答える。ランドセルも赤。毎日スカート。文句とか、反論とかいっぱいあった。でも、俺はそうしなくてはいけなかった。

 そういうもんだって、どっかあきらめてた。もう、考えるのもめんどくさい、ってどうでもよくなっていた。中学生にあがったころ、そう思っていた。
 周りはあの先輩がかっこいいとか、あたし彼氏できたとか、そういう話で盛り上がっても、当然俺は男の子。男に対してかっこいいだなんて思わない。女の子の膨らんだ胸だとか、ほどよくついた脂肪、丸みを帯びたからだ。そういうのにひかれる。だからといって、好きな子はいた。だけど俺は女の子としいぇ生活しなくちゃいけないのだ。ならば、レズだとかそんなこと言われて気味悪がられるだけ。ああ、ああ。もう。本当に、嫌。

 俺のことを女子はかわいいね、と、言う。確かに顔は化粧もしてるし、遺伝も強く、女顔。完璧な女性といっても過言でないくらい、見た目は女の子だ。だからそれに見合うように、ピンクが好き、うさぎが好き、ふわふわが好き、レースがすき。そうやって、自分を押し殺して、合わせていく。本当は、ちがうけど、そうしなくちゃ、いけないだろ。

 告白だってされる。当然「ごめんなさい」「理由は?」「あたし自信ないから」そうやって、つくってりゃあ、いいんだろ。なあ、もう、うんざりする。自分が自分じゃなくなることに。




「俺さ、女にたたないんだ」

 高校生になって、初めての冬のことだった。
 ほかの女子がクラスの男子としゃべりたいのにしゃべれない、とか言ってる意味がいまいちわからなかった俺としては、男子としゃべることが多々あった。それなりに男子と仲が良くて、メアドとかもしってたし。だからといってメールしたり遊んだりするわけではなく、たまにしゃべるくらい。男子と女子の距離って、そんなもんじゃん。
 委員会で帰るのが遅くなって、誰もいない教室にそいつがいた。「なにしてんのー」とかそういう会話をちょっとずつしている間に、そいつがいきなりそういった。

「…は、?」
「俺さ、女に立たないの」
「……え、っと?」
「こういうこと言うのってセクハラ?ってか、意味わかる?」
「…ゲイって、ことかな…?」
「うん、そう」

 雪の降る、外の景色を眺めていた彼は、ふと、こちらを見た。


「女にたたない、ん、だよな。だから、初恋もその次もずっとずっと、男だった。それに異論はなかったし、そんなもんだって受け入れた。男同士でセックスだってしたし、隠している気もそんなにない。だから、女の子となんて、無縁だって思ってたんだ。―――だけどさ、俺さ、お前のこと、すきになって、さ」


 、すき、?

 告白されたのは初めてなんてことはなかった。一応、もてた。(もちろん男にだから、付き合うことは一度もなかった)だから、戸惑うことなんてなかった。だけどこいつは、ゲイ、だ。


 こいつになら、言っていいの、か、な。



「ゲイなのに、あたしのこと、すきなの?」
「うん」
「そ、っか」
「返事とか、いらないから。ただ、言いたかっただけ」
「…ありがとう」
「……いえいえ、」

 あのさ。
 
 そう呟けば、彼は優しそうな顔でこちらをみた。




「俺が男だって言ったら、どうなる?」




 彼なら、と、思った。だって、男好きになるんだぜ?だから、女の子をすきになったって考えるよりは、女装男子ってほうが、考えやすくない?俺は、そう、思う。だから、せめて、自分の気持ちを軽くしたかった。せめて、知ってほしかった。うけとめてほしかった。エゴ?自己満足?そうだよ。悪いか。だけど、彼が自分はゲイだと言った。だから、それと同じように自分の隠していることを言うべきだと、おもったんだ。



「…なにその、驚いた顔」
「……なっとく、した、かな」
「そっか」
「女の子好きになったんじゃなくて、お前が女装してたってことか」
「まあ、家のしきたりとかあってね」


 へらり、と、笑ったつもりなのに、流れてきた涙を、俺はどうすることもできずに、ただぬぐおうとしても、涙はぼろぼろと、床に不時着陸。ああもう、かっこわるい。

 彼がふと、近づいて、俺の肩に両手を置くと、顔を近づけた。べろり、と俺の頬に流れる涙をなめれば、俺は、身を震わせてしまった。


「はは、」
「はは、じゃ、ない、で、しょ…っ!」
 
 そのまま、肩に顔をうずめる彼を突っぱねることも何することもできない俺は、ただ、その茶色くて少し痛んだ髪の毛をゆるくなでまわしてやった。


「ねえ」
「なに」
「俺と付き合ってよ」

 いつもならば、笑ってごめんね、なんて言う言葉を、俺は、飲み込んでしまった。それに驚く自分。だって、男にほだされるなんて、ありえねえ。ありえねえ。ええ、っと、もう、わけがわからない。ごめんね、いつもなら口を衝いて出てくる言葉を、俺は吐き捨てることもできず、気がつけば、上下に首を動かしていた。それを見て笑う彼。ぎゅう、と抱き締められる四肢。ああ、もう、いみわかんない。いみわかんない。混乱する脳をもっているのに、俺の心臓は、ひどく、温かく、鼓動していた。


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