心の名前
博士はぼくをぎゅう、っとすると、なでなで、と頭を撫で回した。

「はかせ」
「博士じゃなくて、葉風だっつったろ。俺の名前だ」
「なんでなまえなの」
「呼んでほしいもんなんだよ」
「わかんない」
「後々わかる」

 後ろからぼくを羽交い締めにするはかぜはぼくの顔を覗き込んだ。
 はかぜはそのままぼくの唇とはかぜの唇を押し当てた。それだけではかぜはどこかうれしそうに、でもさみしそうな顔をする(ぼくにはさみしいもうれしいもわからない)
 

 プログラムにたたき込まれたことしかわからない。ぼくのなかで世界は0か1しかないのだ。有か無。ありかなし。それ以外なんてないのだ。2も3も10も100もないのだ。


「うれしい」
「そうですか」
「わかんねえか」
「だってぼくを作ったのははかぜじゃないですか」

 アンドロイド。
 はかぜは博士で、ぼくはアンドロイド。それだけのことなのに。それだけのことなのに。

「すきだ」
「ぼくにはそれがわかりません」
「知ってる」
「うけとめられません」


 目にみえないものは0だ。だけど、はかぜにとっては1なのだ。感情。心。魂。それらが1なのだ。
 だからぼくには受け止められるはずがないのだ。言葉は知っていても何物なのかわからないそれを。

「はかぜ」
「ん?」
「あいってなんです、か」

 はかぜは笑うともう一度、唇と唇を繋げた。はかぜは何も言わず、ただ笑うだけで。


「ありがとう」

 なきそうな目をして無理に笑ってることは知っている。だけどぼくにそれは、受け止められないのだ。


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bkm

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