優しいね、雨。
 雨が嫌いだ。
 
 理由はしょうもないことなのだが、小学生の時にテストの点数が悪かったのを母に見せなかった。そのテストをみつけられて、怒られて夜に外に出された。たまたまその日が雨の日でずぶぬれになって、風をひいて一週間ほど寝込んだ。

 たったそれだけの理由なのだが、それだけでも俺には十分トラウマではある。だから雨の日は外に出たくない。(学校があるのでそういうわけにはいかないが)とりあえず億劫で、早く帰りたくて帰りたくて、しかたないのだ。


 傘忘れた。


 生徒用玄関の前で、俺は雨の匂いを嗅ぎながらざあざあとざわめくように雨がコンクリートにたたきつけられる光景を見た。ああ、もう、いやだなあ。早く帰りたい。

 女子じゃああるまいし、濡れることに抵抗はあまりない。ただ家まで自転車で10分かかるため、少々めんどくさいな、とは思う。ああ、もう、めんどくさい、帰ろう。

 突然の雨に傘がない、だのなんだの騒ぐ女子をしり目に俺は雨の中を小走りに進み始めた。



(…さむい)


 さすがに3月の雨は寒い。自転車小屋まで走っているときにすでに気づいた。(玄関から自転車小屋までは少し歩かなければならない。)あああ、もう、バスでものって早く帰ろう。踵を返して、バス停に向かおうとした時だった。


「傘ねえの?」


 後ろに傘をもったクラスメイトがいた。



「あー、あー、まあ。でもバス乗るし」
「いつもチャリだよな?」
「まあ…でもさすがに」
「家、駅方面の居酒屋だよね?」
「ああ、文化祭の打ち上げしたな」
「あ、じゃあ、一緒に入る?」



 彼は電車通学らしい。
 俺の学校はバス停はすぐ近くにあるくせに、電車の駅は歩いて20分ほどかかる。(しょせん田舎なんでね)で、俺の家は学校から駅までの間にある。というわけで。いれてもらった。傘に。男同士だ。付け加えておく。


「あー、すまん」
「いやいや、別に、方向一緒だから」


 すまん、絵的に。

 彼は女子にもってもてのクラスメイトで超イケメン。俺は一般人、村人Eくらい。駅まで歩く女子が俺たちを好奇の目で見ているのはわかる。なんせ男同士で相合傘、しかも一人は学校で有名のイケメン。ああ、申し訳ない。俺がせめて女子だったらよかったんだろうけどな…!


「…あ」

 ふと横を見ると、やつの肩が傘からはみ出して濡れていた。それにくらべて俺はすっぽりと全身が傘に収まっている。(なんだこの違和感)
 ちゃんと考えてみると、彼はなんだかんだ車道側を歩いていた。(偶然かもしれないけれども)


「お前、ちゃんと傘はいれよ」
「え、あーだって、狭いから、仕方ないじゃん」
「いやだって俺いれてもらってる側なのに、なんか申し訳ない」
「気にしなくていいよ、そんなの」
「いや、俺が気にするから。つーか、俺男だから全然平気だし、な?」


 きょとん、とした顔をした彼は、その後立ち止まってからへらりと笑い出した。


「すきなひとにはやさしくしたいじゃん」



 は?




 俺の脚が止まったことをいいことに、彼はあざ笑うように俺が固まっている姿をみて、鼻で笑う。そして、小さく唇が俺の黒い短い髪に触れた。


「家、着いたよ、また明日ね」




 傘が頭上から消えて、俺はまた雨にさらされ始めた。
 やつの背中を呆然とン眺めながら俺は、真っ赤な顔をどうすればいいかわからなった。


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bkm

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