現在の状況を整理しよう。
「あの」
「なんだ」
「これ、なんですか…」
場所は生徒会室。
現生徒会長の俺と前生徒会長の前園先輩の二人きり。
俺は書類作業をする。
前園先輩は俺の隣で笑いながら紅茶を飲んでいる。
そして俺の片手は机の脚に手錠で拘束されている。
「手錠に決まってんだろ」
「状況を説明してほしいんですけど?!」
意味が分からない。
まあ、確かに先輩は今は紅茶を飲んでいるが仕事をちょくちょく手伝ってくださる。だから仕事の量としては減っている。
先輩が引退したあとも生徒会室に来るようになったきっかけは、ほかの生徒会役員が転校生にラブコールーしまくって仕事にかまけだしたあたりからだ。俺は男に興味はない。(ここは全寮制男子校である)したがって、男のケツ穴にぶちこみたいだなんて願望もない。
それからというもの、俺は忙殺されてもおかしくない勢いで仕事をやった。(実際文化祭の運営を一人でやった。三日寝ない日が週2回あった。)死ぬかと思っていたら、前園先輩が運営を手伝うようになった。これは助かる。だけども、なぜ、手錠。
「おまえさ」
「はい」
「転校生にケツ狙われたんだろ?」
「なんで、それを…」
「未遂でよかったな」
「………」
「あ、処女喪失?」
「え、そ、そんなこと、」
「うっわマジで?」
この間転校生は女役だと思って油断していたら処女喪失した。誤解をまねくと怖いから言うが、俺は男だ。しかも180センチある。顔も男前だと思う。
「あー…広めないでくださいね」
「あ、もしもし、俺だけど、お前新聞部だったよな」
「ふざけんなあああああああああああああ」
携帯電話を耳に当てる先輩からうばいとる。
(ちなみにつながっていなかった)
「あー、お前の処女もらおうとおもってたんだけどな、俺」
「は?」
「あ、これ、マジ」
「…は?」
「なんでそんなおどろいてんの?」
「…先輩っておれのことすきなんですか?」
「ンなわけねえだろーが」
「…え、ぇええええぇええ…?」
「おもしれーじゃん、お前の処女とか」
「なんもおもしろくないですよ…?」
この人の思考が分からない。おもしろいから後輩のケツ掘るのか、この人は。
「つーかさ、すきってなに」
うん?
「俺すきとかきらいとか、惚れた腫れたとか、わかんねえんだけど」
「…は?」
「どういうのなわけ?」
この人はなんでこう、爆弾をぶちこんでくるんだろうか。
意味が分からない。本気で。この人本当に繊細な思考と思慮深さを併せ持つ日本人なんだろうか。つうか、地球人なのかも怪しい。
「自分で考えてください…」
「あ、そう」
先輩は隣で優雅に紅茶をすすり始めた。俺は溜息をついてから、書類に向かい始めた。
しばらくしてから、先輩が一分以上俺のほうを向き続けるのに耐えられなくなって、俺は書類をやめた。
「なんですか本当に!」
「…髪の毛さわりたいなあって」
「はァ?」
「ふわふわ、」
茶色に染まって傷んだ髪に何が魅力があるのかわからない。先輩は俺の髪の毛を触る。たまに頬に触れる指がもどかしい。
「ほんと、なんですか、なんでそんなに優雅に紅茶のんでるんですか…」
「なんでっていわれたら、お前といると、俺なあんか緊張するんだよな」
俺が緊張するのは分かる。先輩と二人きりなんて話が持たない。
「とりあえず落ち着かせようと思って、紅茶飲んでる」
「おちつきましたか?紅茶五杯ものめば」
「だめだ、なんでだ」
「先輩」
「ああ」
「ついでにききますけど、この手錠はなんですか」
先輩は黒い髪の毛をわしゃわしゃとかきむしりながら、うなり始めた。うーん、とかなんとかいいながら首をひねる。こんなに悩んでる先輩をみるのははじめてだ。
「なんかさー」
「はい」
「お前が転校生にとられんのが怖くて」
「…へ?」
「なんでいやなんだろうな、とられんの」
いみわかんねえなあ俺。
そうつぶやく先輩をみて、俺は顔が真っ赤だった。ちょっとまて、こいつ、自覚ねえ。自覚ねえの?なんで?なんで?おれのこと、めっちゃ、え、うそーん。
「先輩」
「なんだ」
「すき、ってなんでしょうね…」
「そうだよ、なんなんだ。教えてくれよ」
教えれるわけねえだろうが。(ケツが心配で)