神様にはなりたくない
※前半は会話だけ



「あのさー」
「んだよ」
「俺彼女と別れようと思うんだけど」
「愛歌ちゃん?」
「そう」
「もったいねー、なんで?」
「俺もあいつも今忙しいし」
「なんでだよ大学生だろ、暇だろ」
「暇じゃねーよ、単位取るの必死だわ、しかも教育実習あるし」
「あ、そっか、教員免許とるんだっけ、それは暇じゃねーな」
「しかも小中高とるから俺」
「しにてえの?」
「仕事で忙殺されて死にたい」
「うわー…」
「なんで?忙しいの楽しくねえ?」
「…俺、趣味は睡眠だから…」
「だめ人間め…」
「で、愛歌ちゃんはなんで忙しいの?」
「なんか、バンド?」
「へえ、バンドなんかやってんのか」
「しかもロック」
「なんかふわっふわしてるイメージしかねえんだけど…」
「リードボーカルで、ギター弾いてたわ」
「意外性ありすぎ」
「だよなあ、俺そういう愛歌すきだし」
「じゃあ別れんなよ」
「でもあっちが忙しい暇縫って俺に会いに来るのが申し訳ないし、あっちも同じこと言ってた」
「まあ、じゃあ、しょうがないんじゃね」
「てきとうすきだろ」
「だって本人の問題だろ」
「そうだよなー…」
「でもまあ、俺の趣味睡眠なんだけどさ」
「なんで話もどった」
「寝てるとき、未来みえるんだわ」
「……は?」
「俺は別れないことをおすすめするけどな」
「……え?未来?」
「俺は忠告したからな」
「お、おう…」
「じゃあ俺はサークル顔だしてくるから」
「俺も講義あるから行くわ」





 街頭の巨大スクリーンから流れ出るロック。

 クリスマスに野郎二人でイルミネーションを見に来ている俺たちは完璧負け組だった。(リア充の視線をこう、曲げれないものか、と思ってしまう)


「あ、この曲すき」
「なんだっけ、『サチ』ってバンドだっけ?」
「そうそう!ボーカルのaikaがすっごいかわいいし、歌詞もいいし!」


 すれ違うリア充がそんな会話をしていた。
 耳に入って思わずびくりと肩がはねた。

 このごろ、その名前を聞くたびに、隣にいる男の2年前の忠告を思い出してしまう。


「愛歌ちゃん、武道館でライブするんだろ?」
「今その名前をださないでくれ…」


 巨大スクリーンに映るのは、2年前に付き合っていた彼女だった。赤色のギターを豪快に弾きながら叫ぶような声をあげ、歌を歌っている。


「別れてから、もう2年?」
「そんなこと言ったら俺がちょうひきずってるみたいだろやめろよ…」
「ひきずってねえの?」
「まあ、あん時は忙しかったし…」
「結局先生なれたからよかったじゃん」
「そうそう、それでいいんだよ、ああ」


 教員になって初年度の今年、愛歌と別れてからも彼女なんてものはできずに忙しい毎日を過ごした。テレビもラジオもみなかった。いつのまに、そんな有名人になっていたのだろうか、彼女はいつのまにか今一番勢いのあるバンドの顔になっていた。


「あー」
「なんだよもー、ひきずってんじゃん」
「ひきずってねーし」
「忠告しただろ、俺」
「うっせー」


 頭をかきむしっても、現状は変わらない。
 未来を知っていたら、違うことをしたかといっても俺はきっとしなかっただろう。

 今、ただいえることは、一言。



「未来なんてしったこっちゃねーよ」



神様にはなりたくないな


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bkm

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