ぶっちゃけ言うと、中学時代にこっぴどく振られたことが私にはトラウマだった。
私は背が高い。
中学校に入るころにはもう160センチを超えていた。成長が止まったころには170センチあった。そこらへんの男子よりは大きいのだ。学校1でかい女子として有名だった。身長順に並べば必ず一番後ろ。教室の座席をくじびきで選んだ時、後ろの席の女の子に「佐藤さん大きいからみえません」と大きな声で言われた。その子はわたしのことが嫌いだったのも相まって、私は教室中の笑いものにされた。友達はいた。でも少し卑屈だった。この背が嫌いだった。女子であるにもかかわらず、教室の高い位置にある窓をしめるように頼まれたり、掲示物をはがすことを頼まれたり。相手に他意はない。女子はお世辞なのかなんなのかみんないいなと言った。男子はばかにしてきた。男よりでかい女子なんてきもい。何回言われたか。
ある男の子が好きだった。
その子はバスケットボール部で身長が低いことを気にしていた。だから私が告白した時、たくさん、言われた。「てめえみたいなでかい女は女じゃねえ、きもい、ブス、しね」
身長がただ高いだけなのに。
私はたったその一つの要素だけでここまで普通の女の子と違うのか、愕然とした。大嫌いだった。普通の服や靴が似合わない私が。
バレーボール部に入った。
高い身長は重宝された。
大好きだった。
髪を切った。
男女だといわれた。
嫌いになった。
でも、私はやめることができなかった。唯一、私を好いてくれる存在であったからだ。
それから高校生になった。
相変わらず私はクラス、いや、学校で一番大きな女子だった。私はバレーボールを続けており、ショートカットのままだった。だから、男にも見える。
中学時代のあの出来事から、男の子が大嫌いだった。
友達がクラスの男子としゃべっているときは私は自分の席に戻った。自然と、男子を避けていたのだと思う。友達は私のその行動に何もとがめなかった。可哀想、なんて思っていたかもしれない。身長が小さくなればいい。何百回、何千回、考えただろうか。でも、朝起きても全身鏡から少しだけ姿がはみ出す私の顔は、鏡に映らないのである。
「佐藤って170あるよな?」
前の席の男子に、ふと言われた。
「あ、ああ、あるよ。172」
「マジで?いいなー。おれバスケ部なんだけどタッパないし、不利なんだよな」
「そうなんだ」
「そう、166しかねえの、俺」
どうせ、きもいとか、ブスとか思われてる。自分より高い女子なんてきもいと思われてる。それが嫌で、私は彼の顔を見れなかった。うつむいて、机の上をみつめていた。机の上には、何もない。
「佐藤さー」
まだ、話し続けるんだ。ああ、いやだなあ、いやだなあ、いやみとかいわれちゃうんだろうなあ。そう、思った。
「もてるでしょ?」
「は?!」
思わず大きな声をあげてしまった。それにびっくりして、彼は体をはねさせた。
「もてないよ、なんでそんなこというのー」
笑って見せるけど、私はきっと笑ってなどいないのだろう。あはは、冗談やめてよ。口元は笑えてるだろうか。顔の引きつりは止まらない。私にとって、嫌味にしか聞こえない。
「え−?なんで、佐藤かわいいじゃん」
「はぁ?」
「え、言われない?」
「言われないよ。身長高いもん」
「?身長?」
「いやでしょう、自分よりも身長高い女子」
「…関係なくない?」
何言い出すんだこいつは。
そう思った時、ふと、彼の手が伸びてきたと思ったら、それは私の頭をなでた。
優しい、手つきだった。
「佐藤の笑顔すきなんだけど、俺」
え、え、え?
「かわいいよ、佐藤は」
そんなこと言われたのは初めてだった。ましてや、頭をなでられることも、一切なかった。純粋にうれしかった。やばい。今、ちょう、顔真っ赤かもしんない…!
彼は、軽蔑しないだろうか。ブスとかきもいとかしねとか、言わないだろうか。信じてもいいのだろうか。わからない。わからないけど、すきになってもいいですか?
bkm