逃げ出した。
自分の感情からも、彼からも、現実からも、俺を取り巻く環境からも、全部、逃げ出した。否、逃げ出したかっただけ。結局そんなことできるはずがないのだ。彼にとらえられた、といっても語弊なんてないんだから。
彼から逃げ出すなんてありえない。
冷たい手が、俺の手首をつかむ。彼のあらい息遣いが、すぐそばで、聞こえる。
「なんでにげんの」
「だって、男同士だろ」
「それの何が悪い」
「悪いも何も、」
根本的に、だめだろう。
「宗教柄、同性愛、だめ、だ、から」
「知ってる」
「じゃあなんで」
「俺は、神様なんていないって思ってる」
おまえだけいればいいよ。俺はそれでいい。だから、俺から逃げ出そうとしたら、何回でもとっつかまえてやる。神様なんて、知るか。お前の信仰しているそんなもの、全部、知らない。いらない。俺は、お前以外、いらない。
そうやって、俺の手首をひく、彼の腕の中に、俺の四肢は投げだされた。
光が怖いんだ。神様が、そこにいるような気がして、怖いんだ。ずっと、ずっと、それにおびえながら生きている。彼と出会ってから、ずっと、光におびえてる。
じゃあ、それを捨て去ることをできれば楽になるのだろうか。光をすてても人間は生きていられるのだろうか。否、違う、俺の光は、彼だけだから。ああ、もう、苦しくて、苦くて、たまんない。