兄弟げんか





目が覚めると勝威さんの姿はもうなかった。

カーテンの隙間から差し込む朝日。時計を見るとまだ7時。今日は土曜日で学校は休みだから、そんなに急いで帰らなくてもいいのに。

ぽっかり空いた一人分のスペースを見て少し淋しく感じていると、水音とともにトイレのドアが開いた。

「なんだ、起きたのか。」
「…あ、おはようございます。」

勝威さんがベッドへ近づいてくる。そっか、まだ帰ってなかったんだ。

「もう帰ったかと思った?」

口角を上げながら髪をくしゃくしゃと撫でられる。心の中を読まれたようで顔が熱くなった。もうほんと俺…、やばいな。

「朝ごはん作ったら食べますか。」

赤くなった顔を隠すためにベッドから起き上がり勝威さんの横を抜けてキッチンへ向かう。

「食いたいけど縁と鉢合わせたら面倒くさそうだからな。」
「縁が?」
「なんとなく。」

そういえば俺、縁から勝威さんに気をつけるように言われてたのにな。こんな風に1人のときに部屋に泊めるなんて忠告を無視したことになっちゃうのか。それは少し気まずいかもしれない。

でも下手に隠して後からバレるのも嫌だ。泊まったことは隠さず正直に話そうと心の中で決めたとき、玄関のドアが開く音が聞こえた。


「ただいま。あれ。鷹臣休みなのに起きるの早いね…って。」


勝威さんを見つけた途端縁の眉間に皺がよる。部屋に入るなり勝威さんの胸元に掴みかかった。

怒るかもしれないとは思ったけれどここまでとは。勝威さんは予想通りというような顔で縁を見下ろしている。


「なんで兄貴がいるんだよ…!」
「いちゃ悪いかよ。」


なにこれやばい…!すっごい険悪なムードなんですけど…!


「……兄貴が誰と適当に遊んでても関係ないけど、その辺の奴らと同じような感じで鷹臣に手ぇ出してたら絶対許さないからな。」


こんなに感情を剥き出しにして声を荒げた姿を見たのは初めてだった。

いつもは無表情だったり、たまに機嫌悪そうな顔をするのは見ているけど、そのときとは明らかに違う。

縁とは反対に勝威さんは表情ひとつ変えなかった。しばらく無言で縁を見つめた後、子供をあやすようにポンポンと頭に手を置く。

その行為に縁の険しい顔が少しだけ緩んだ。


「じゃあ、またな。」


胸元を掴んでいた縁の腕をかわして、それだけ言うと勝威さんは部屋から出て行った。

またな。って言葉を頭の中で繰り返す。どういう意味での『また』かな。深い意味はないはずだ。きっと。


「鷹臣、僕、兄貴には気をつけてって言ったよね…?」
「えっ!あ、はい、ご、ごめん……」
「で、どこまでしたの。」
「…え?」
「鷹臣のベッドだけ乱れてて、朝まで一緒にいて。どうせ最後までヤられたんでしょ?隠しても高遠が兄貴から聞くから無駄だからね。」
「いや!されてない!なんにも………いや、なんにもではないけど…」
「なに?早く言って。」
「えっ、と…手で扱かれただけ…っていうか…」


これはかなり恥ずかしい、っていうかなんでこんなの俺自分の口から言わされてるの?どんな羞恥プレイ?

縁の顔をチラリと見ると納得できないという顔をしていた。


「あの兄貴がそこまでして最後までしないわけないじゃん。」
「だってほんとにそうなんだって…。」
「なにそれ、意味わかんない。」


そんなこと言われても…。手を出されなかった俺に欠陥があるように感じて悲しくなる。

縁は何かを考え込むような仕草でそれきり何も話さなかった。

とりあえず、なんとかして機嫌を直してもらおうと思い朝食を作りにキッチンへ向かった。





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