花に嵐










旅行から帰ってきて、クリスマスにお正月。冬休みはあっという間に過ぎて行った。


俺は特別何をするわけでもなく、ただ毎日、1日1日を消化していく。勝威さんは2月末にあった二次試験の結果発表を待ちながら、後期日程に備えて未だ気の抜けない毎日が続いていた。

第一志望の合否は未だわからないまま、合格発表よりも早くやって来た今日。



3月7日。



「鷹臣くんのご飯食べるのも今日で最後かなー。」

「なんでも"最後"ってつけると感傷的になるよね。よかった、僕はあと1年食べられるから。」


放課後、いつものように高遠さんと縁、勝威さんと、いつもの4人で晩御飯を食べる。学生最後の記念にって、高遠さんも豪華なホールケーキを作ってきてくれた。きちんと「卒業おめでとう」のチョコプレートも付けて。当の本人は食べられないんだけどね。この巨大なケーキも殆どは縁のお腹に入ることになるんだろう。


「そういえば卒業式って純さんも来てましたよね?式の後って家族と食事に行く人が多いみたいですけど、行かなくてもよかったんですか?」

「式の最中に途中で帰るってメールが来てたから、あいつは多分仕事。」

「僕も結局会えなかったな。春休みにまた会えるからいいけど。あ、そうだ。卒業アルバムちゃんと実家に持って帰ってきなさいって言ってたよ。」

「でも勝威が写ってる写真って全然無かったよね。」

「お前はうざいくらい全部に写ってるけどな。」


卒業アルバムは部屋に帰ってきてから俺も見せてもらった。1年・2年生、自分の知らない頃の勝威さんが見てみたくてクラスごとのスナップ写真のページを一生懸命探したけど、結局勝威さんは見つけられなかった。

その代わり高遠さんはほぼ全ての写真に大体最前列で写っていて、ていうかむしろ他のクラスのページにまでちらほら存在していた。

なんでこの2人が3年間友達だったんだろうって思う。正反対だからこそ、なのかな。

「勝威さんの昔の写真見たかったな。」って呟いたら、縁が「今度兄貴に内緒で持って来てあげるよ。」って囁いた。


思い返せば1年前、今では当たり前になってしまったけど自分自身この3人と一緒にいることに違和感を感じていた。

縁と同じ部屋にならなければ何の関わりもなく過ごしていたんだ。

もし同じ部屋になったのが俺じゃなくて別の誰かだったらって、そんなこと考えたって無意味なことだってわかってるけど。



「高遠さん、荷物ってもう全部運び終わってるんですか?」

「うん、部屋は2月中に入居しちゃったから。引越しは大体済んでる。鷹臣くん淋しがらないでね。毎月3日以上は遊びに来ようと思ってるから。」

「月に3回って…ほぼ毎週ですけど。」

「できもしない約束ならしないでよ。」


縁の突き放すような言葉にも、高遠さんはただ微笑んでいた。

京都で話したときには「1年なんてあっという間」だって言っていたけど、淋しいと思うのは当然だし、縁なりに自分の中で気持ちの整理をつけようとしているんだろうなって思う。

まぁ、でも高遠さんなら冗談じゃなく本当に来るんじゃないかな。
淋しいなんて感じる暇も無いくらい。


「あ、そろそろ施錠の時間だから俺らは部屋に戻るね。明日出発前にここに寄るから。」


晩御飯を食べ終えた後、高遠さんは縁を連れて3年生の寮へ帰って行った。

勝威さんは合格発表の後もまだしばらくは寮に残るけど、高遠さんは明日の午前中にはもう寮を出て行くことになっている。


「……風、凄いね。縁と高遠さん大丈夫だったかな。」

「走ればすぐだし、たいしたことないだろ。」


せっかくの卒業式なのに今日は1日中天気に恵まれなかった。今でも窓の外で唸り声のような風の音が響いている。

定番の卒業ソングには大体"桜"が出てくるけれど、寒い地域で生まれた俺は花びらの舞う中での卒業式なんて漫画やドラマの中でしか知らない。今日だって、冬のように寒い中、溶け残って黒ずんだ雪を避けながら登校した。


「桜満開の卒業式っていいよね。ちょっと憧れてる。勝威さんの入学式はきっと桜の中だね。」

「受かってればな。」

「受かってるよ。センターの結果も良かったし。」


卒業式は滞りなく。予行練習通り無事に終わった。

答辞も送辞も、自分と直接関わりの無い人たちからの言葉だと思って殆ど興味を持っていなかったけれどあの場所、あの空気の中でで聞くと思いのほか心に残るものがあった。

単なる形式的なものだとしても、あれはやっぱり必要なものなんだなって思う。

勝威さんの制服姿を見ることはもう無いんだな、って思って、沢山目に焼き付けた。いつもは着崩していることが多いけど、さすがに今日は上まできちんと学ランのボタンを留めていて、窮屈そうな首元になんだか妙にドキドキした。

何度も何度も今日この日のことを考えていたけど、今でもあまり実感が無い。


「そうだ。勝威さんの第二ボタンもらってもいい?」

「いいけど。ボタンなんか貰ってどうすんの。」

「なんとなく記念に…。あ。やっぱりボタンじゃなくて制服ごと欲しいかも。」

「……まぁ、好きなだけ持っていっていいよ。」


だってなんか、残しておきたいじゃん。
せっかくだし。
勝威さんは写真も少ないし。


「そういえば、鷹臣は今週末なにしてる?」

「今週末って…土曜は勝威さんの合格発表の日だよね。何も予定入れてないよ。」

「俺は受かっても落ちてても、とりあえず週末は実家に帰って来いって言われてるんだけど。」

「そっか。そうだよね、直接報告した方がいいもんね。」

「それでお前が嫌じゃなければ、」


次の言葉まで少しだけ間が空いた。
珍しいな。勝威さんが言い淀むなんて。



「………お前も来る?うちの実家。」




……俺も?なんで?


その提案はかなり予想外で、すぐには答えが出てこなかった。








[ 54/56 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -