四条河原町から徒歩圏内。今日泊まる宿は木造2階建てのこじんまりとして落ち着いた雰囲気の旅館。大浴場と、小さいけれど露天風呂もあるみたいだ。嵐山近辺を散策して、旅館に着いた頃には19時を過ぎていた。

高遠さんと縁、勝威さんと俺。それぞれの部屋に用意されていた浴衣に着替えてみんなで一緒に大浴場に向かった。灯篭に照らされた小さな庭の中にある露天風呂。温泉を満喫して部屋に戻ると、出る前にはなかった布団が2組並べて敷いてあった。

「勝威さん、勉強道具は持って来てないの?」
「ここまで来てやっても仕方ないからな。」

そういえばここへ来るまでの電車の中でも時間は沢山あったはずなのに、勝威さんはぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。

いつも空いた時間があれば本を読んでいるのに、何もしていない姿を見るのはなんだか新鮮で。だからきっと勝威さん自身もきちんとこの旅行を楽しもうとしているんだと感じていた。

「もう疲れた?眠そうな顔してるよ。」
「歩いたからな…今日は。」

そう言いながら浴衣の上に羽織っていた丹前を脱いで布団の上に横になる。

あ、やばい。下手したらこのまま寝ちゃうかもしれない。俺もいつでも寝られるようにしておかないと。携帯も充電しておこう。そういえば今日1日殆ど触っていなかった。

数時間ぶりに見た画面には、未読のメールが1件に不在着信が1件の表示。両方とも時間は2時間程前だった。

メールも着信も弟から。双子2人で一つの電話を共有しているから、どちらが送ったのかはわからない。

「え……?」

何の気なくメールを開いた瞬間、飛び込んできた文字に頭の中が真っ白になった。


「鷹臣どうした?何かあった?」


心臓がドキドキしている。振り返ると体を起こした勝威さんが心配そうな表情で見つめていた。


「…母さんが、倒れたって。」


こんなときに限って、どうしてこんな遠くにいるんだろう。寮にいたって離れていることには変わらないけれど。

すぐに駆けつけられない場所にいることが、どうしようもなく歯痒かった。









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