卒業旅行
「卒業旅行行かない?4人で。来週。」
いつものように俺と縁の部屋で4人集まって夕飯を食べているとき。高遠さんのその提案は、本当に唐突だった。
予想外も予想外っていうか。
まず来週って急すぎるし。
しかも今、12月半ばだし。冬休みだし。
卒業旅行には早すぎるし。
そもそも卒業するのは高遠さんと勝威さんだけで俺と縁は卒業旅行じゃないし。
「高遠お前さ、センター試験て知ってる?」
呆れた表情の勝威さんが呟く。
そうだよそれもだった。受験生なんだよ。お正月明けたらすぐセンター試験だよ。もうすぐだよ。
「うん俺センター関係ないし。受験ないし。」
そうなんだ。高遠さんは卒業後進学はしないで就職することが決まっている。幅広い交友関係の中で知り合った広告関係の会社の代表の人と意気投合して、そのままそこで働くことになっていると聞いた。大きな会社ではないけれど、色々新しいことに挑戦してて自由な雰囲気が気に入ったんだって。
高遠さんらしいと言えばらしいけど。
てか高遠さんがセンター関係ないのはいいけどさ。勝威さんは思いっきり受験生なんですけど。
「あの、卒業旅行って普通大学の合否発表出て、卒業式も終わってから行くんじゃないんですか?」
「そうなると3月になっちゃうでしょ。俺卒業したらすぐ来てって言われてるから旅行してる時間無いんだもん。」
「なんでお前の都合に合わせなきゃいけねぇんだよ。だったら縁と2人で行って来いよ。」
「みどりちゃんとも行きたいけど、卒業旅行とはまた別じゃん!みどりちゃんも鷹臣君いた方が楽しいよね?」
「うーん。じゃあ受験生の兄貴だけ残って3人で行く?」
いや。そうなるともう卒業旅行でもなんでもないよね。やだよ俺。3人でなんて気まずいし。
本当のことを言えば俺だって勝威さんと行けたら楽しいだろうなって思うけど。最近はあんまりゆっくりできる時間も無いし。
だからってこの時期に卒業旅行なんて無謀な真似させるわけにはいかないよ。勉強だけじゃなく体調の面でも、全部含めて。
「そもそも来週なんて急な話、無理ですよ。ちょっと早いけどクリスマスシーズンですよね。いまから泊まるとこ予約するだけでも大変だし。」
「いやー…それが、俺もまさか取れるとは思わなくてね。4人分、2部屋に分けてみたんだけど。」
………えっと、そうきたか。
ああそうだ。この人はそういう人だった。
これはもう無理かもしれない。
行くしか、ないのかも。
キャンセルしようと思えばまだ間に合うと思う。キャンセル料は取られるだろうけど。
でもなんかそういう次元の話じゃなく。
高遠さんの無茶振りはいつものことだからよくわかってる。多分きっともうなんやかんやでこの話を断ることはできないんだと、そう感じていた。
多分それは勝威さんも同じで。
「高遠、最終的に俺が志望校落ちたらお前も会社辞めろよ。」
「…っ、大丈夫だよ!勝威今の時点でも全然余裕なレベルじゃん?」
出発は来週水曜日。
この時点でまだ俺たちは、高遠さん以外、卒業旅行の行き先すら知らなかった。
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