There are always wishes.
「縁の荷物、ほんとにこれで全部?」
「うん。いらないの大分捨てたから。引越し楽だったでしょ。」
「なんか思ったより早く終わっちゃったね。」
春休み。
新入生が入寮してくるまで、あと半月。学園の寮では一斉に部屋の移動が行われている。
2年生だった縁は少し離れた隣の3年寮へ。今まで2人で使っていた部屋と同じ大きさの部屋を今度は一人で使えるようになるのに、縁の持ち物は本当に少なくて新しい部屋は余計に広く感じた。
荷物を運び出すのを手伝って、ひとまず2人でまた今の部屋に戻ってくる。
大きな段ボールを抱えて行き交う学生たちで、廊下は1日中騒がしい。
人混みの中。
どんなに探しても、3年生はもういない。
どこにもいない。
「鷹臣の同室の1年生どんなのが来るんだろ。」
「普通がいいなぁ。個性はいらないから普通の人。」
「じゃあ高遠みたいなのだったら最悪だね。」
「あー…、個性の固まりだね…。」
2年生になる俺は部屋移動が無いけど、縁と入れ替わりに入ってくる1年生のために自分の荷物もちょっと整理しておかないないとな、と思う。
どんな人が来るのかは入寮日当日までわからない。そこで初めて知り合って、そのまま1年間同じ部屋で一緒に暮らすってよくよく考えるとすごいことだ。
「鷹臣みたいな子だったらいいのに。」
「俺みたいな人見知りだったら大変だよ。2人で会話成り立つかな。俺と縁のときは最初高遠さんがいたから大丈夫だったけど。」
「僕は3年になっても鷹臣の部屋にご飯食べに行くよ?」
うーん。でもそれってさ。結果的に人見知りの先輩がもう一人増えるってだけだよね。
それだったら勝手に沢山喋ってくれる明るい子が来てくれた方がいいな。人任せな先輩でほんと申し訳ないけど。
「今年は寒かったから、入学式までに桜は間に合わないね。」
日が落ち始めた窓の外を眺めながら縁が呟く。蕾が膨らむ気配すらない桜の木。
冬が終わって、だけどまだ春がきた実感はなくて。
こうして日々を過ごすうちに、世界はどんな風に変わっていくんだろう。
勝威さんは、今頃なにしてるかな。
あの日、最後に言葉を交わした日から
何度も何度も考えている。
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