暗闇から手をのばす








[   TAKAOMI Side. ]





「父さんが勝威を連れてくるのは月に1回くらいで。そのたった1日が僕は楽しみで仕方なかった。

だけど1年くらいたった頃に父さんから突然打ち明けられたんだ。勝威は血の繋がった兄弟で、これからは一緒に住むことになるって。頭の中が真っ白になったよ。

だってその瞬間に思い知らされたんだ。"僕にはやっぱり友達なんてできてなかった"っていうことを。

勝威が最初からわかってて僕と仲良くしてたのかはわかんないんだけどさ。一人で浮かれていたような気持ちになっていたのが、恥ずかしかったし悲しかったな。

あの時はまだ小さかったからその感情をどうやって消化すればいいのかがわからなくて。
ただ勝威に裏切られたような気持ちだけが残って。今まで仲が良かったのが嘘みたいに僕たちの仲は険悪になった。

一度こじれちゃった関係は簡単には戻らなくて、あの頃はずっと理由もなく勝威のことが嫌いだと思ってた…。」


淡々と話していた縁の言葉が詰まる。離れたベッドの中で、今縁はどんな顔をしているんだろう。


「……縁、話すのつらかったら無理しなくていいんだよ。」

「……ううん。大丈夫。…ねぇ、鷹臣の方に行ってもいい?」


いいよって返事をすると、縁は起き上がり俺のベッドの中に潜り込んできた。

当たり前だけど、こんな風に一緒に寝るのは初めてだ。少しでも落ち着けるようにと縁の手をそっと握ると、ためらいがちに緩く握り返された。

狭くて暗い布団の中、縁の指先は冷たかった。



「僕が一方的に距離をあけてたんだ。多分それは怖かったから。」



特別な存在で、
友達でもなければ兄とも思えなくて
毎日顔を合わせるその人に対して抱いた
得体の知れない感情


正体のわからないそれから目を逸らすように
ただひたすら避け続けた


歪んで正常な形をしていない、
おそらくそれは
気づかず枠を越えてしまった、愛情だった



「……中学の頃に、僕は良くも悪くもいろいろあってさ。男の人の方が好きだってわかったのもこの頃。

勝威が卒業して先に家を出てから1年間離れて暮らしたっていうのも大きかったかも。冷静に考えられるようになって、少しずつ兄貴として見ることができるようになった。

でもまぁ、ここに入学してびっくりしたよ。いくら男子校だからって兄貴が男とヤってるとは思ってなかったから。僕も人のこと言えないけどさ。兄弟ともどもなんて、自分でもひいちゃうよね。

同じ学校に行くかどうかはギリギリまで悩んでた。

父さんがこの学校の卒業生だったから僕たち兄弟もここに入れようとしてて。だけど最終的には個人の意思に任せるって言われてたから、決めたのは僕だよ。

あ、高遠にも会ってみたかったしね。」


「え?高遠さん?」

「僕はここに来る前から高遠のこと知ってたから。一方的にだけど。」

「そうなんだ…。ちょっとびっくりした…。」


「高遠に会ってからは凄かったな。すごい勢いでパーッと僕の世界を一回ぶっ壊されて、なにこれ?って思ってるうちに新しい居場所ができてたみたいな。全然伝わんないかもしれないけど。」


「いや…なんとなくわかるよ。高遠さんだし。」


カーテンの隙間から差し込む月明かり。
目の前にいる縁の口元が、少しだけ微笑んだ。


「高遠が、僕を引っ張りあげてくれた。」


すごく久しぶりに見た気がする。縁が自然に笑った顔。縁が今みたいになれたのは高遠さんのおかげだって、勝威さんも言っていた。


好きな人がいるのは、大切な人がいるっていうのは、やっぱりすごく幸せなことだ。



「ごめんね、俺が勝手に縁にやきもち妬いて…。」

「ううん。僕が未だに、なんか変な感じで兄貴を意識してるのは事実だから。でもそれはもう恋愛感情とかそういうんじゃないんだ。


僕は兄貴が最終的に好きになったのが鷹臣で良かったって、本当にそう思ってるんだよ。」


そう言いながら縁が布団の中でもぞもぞ動いて、俺の胸元に顔を埋めて抱きついてきた。
縁の細い髪の毛が顎をくすぐる。

なんかこれは、流石にちょっと照れるんだけど。……まぁいっか。縁だし。


「俺さ、縁のこと大事な友達だと思ってるよ。少なくとも縁が俺に対して思ってくれるのと同じくらいに。」


抱きしめ返しながら呟くと、縁は「相当だよそれは。」って答えた。ねぇ、友達同士は普通こんなことしないよ。まぁいいけどさ。


「縁、もう眠い?」
「うん…眠たくなってきた。」


しばらくすると静かな寝息が聞こえてくる。
寝つき早いな。勝威さんみたいだ。


一定のリズムで伝わる呼吸に眠気を誘われて、俺も静かに瞼を閉じる。


おやすみ。


ありがとう。


また明日。






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