君のこと








[   TAKAOMI Side. ]





「勝威さん、行きたいところってお墓参りなんだ。」


朝早く家を出て寮へ戻る高遠さんとは駅で別れ、勝威さんと2人バスに乗って目的の場所へと向かっている。


「……墓参りって、誰の?」

「中学の頃の友達。あ、でもお墓参りっていうか、正確にはお墓じゃなくて別の場所なんだけど。」


うちからバスでは15分程。住宅街からは少し離れて、バスを降りてからは木々の茂る坂道を登っていく。辿り着いたのは高台の小さな公園。ベンチからは街を一望できる。


「来るだけで何かをするってわけじゃないんだけど。お墓に行ってもなんかそこはカワルの場所じゃないような気がして。この公園によく一緒に来てたから。」

「病気か…?」

「ううん交通事故。勝威さん。相凛学園に入ろうとしてたのは、俺じゃなくて友達のカワルだったんだ。」




中学3年生の夏だった。


横断歩道を渡るあいつの背中。


点滅する信号機。


スローモーションのように世界が歪んで、気が付いたときにはあいつはもういなかった。


これが俺の、2回目の喪失の記憶。





「すっごい自己満足な話になっちゃうかもしれないけど、話してもいいかな。」
「いいよ、ちゃんと聞いてるから。」


うまくまとまらない俺の話を勝威さんはただ黙って聞いてくれた。


倉持 代とは幼馴染だった。俺と違って頭の良かった代は中学受験で私立へ進学した。せっかく受かった私立なのに、代は高校からは地元を離れたいと言い始めた。


聞いても何も言わなかったけど、本当は何が起こっているのか薄々知っていたんだ。学校で虐められていること。なんとなく雰囲気でそう察した。


相凛学園を選んだのは地元から離れられるっていういうのと、誰でも知ってる有名進学校に行けば周りの奴らを見返せるっていう理由だろう。


学校が違う俺はどうしていいかわからず、ただ出来るだけ一緒にいることにした。どんなにつらくても代は一日も学校を休まなくて、ただの一度も弱音を吐かなかった。だから代をもう一人にしたくなくて、今度は俺も同じ学校に行こうと決めた。



そんなときだった。あいつが事故にあったのは。


神様なんていないのかもって思った。



「俺が相凛学園を目指す理由はこの瞬間に無くなったんだ。だけど考えて考えて、やっぱり受験はすることにした。意思を継ぐなんて格好いいものじゃないよ。

うまく説明できないけど。だけど、あんなにあいつが行きたがってた場所だったから。元々が凡人だから、俺勉強しすぎて死ぬかと思った。」


勝威さんの左手が俺の右手に触れた。昼間の公園。通り過ぎる人に見られたとしても構わない。ゆっくりとその手を握り返すと、温もりが指の間から伝わった。


「今でもちょっとだけ、あいつも一緒にいたらなぁって思うことがあるよ。でも今の俺には勝威さんがいて、縁も高遠さんもいて。洋介とか、いろんな人がいてすごく幸せだから。」


失うのは怖い。思い出すだけでもゾッとする。

ずっとずっと一緒にいたのに、一瞬で消え去ったあのどうしようもない虚無感。絶望とか、楽しかった記憶を思い出して泣き腫らしたこと。

でもいつまでもそれを恐れていたら、この先何も得られない。



「帰るか、あいつらも先に着いてるだろうし。」


勝威さんが俺の手を引いて立ち上がった。


いつかこの人の隣にいられなくなる日が来るかもしれないと、怖くて離れるときのことばかりずっと考えていた。

先のことはわからないけれど、今はただ、そうならないようにこの瞬間を大事にしていきたいって。そんな風に思える。


「縁にお土産とかいらないかな。うちの地元たいした名産ないけど。」
「……いいよ、あいつなんかに気ぃ使わなくても。」



2人並んで坂道を下る。

照りつける夏の日差し。

繋いだ手が汗ばむけれど、今はこのままがいいと思った。






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