プライオリティ








[   TAKAOMI Side. ]





「あのね、俺この前の学園祭のときに瑞貴くんたちとメアド交換したんだよね。」

「うわ…なんでそんな意味わかんないことするんですか…。」


瑞貴と希一には携帯を持たせている。ただ我が家はそんなに裕福じゃないから金銭的な事情で2人で共有の1台。そしてその1台しかない携帯を今日は希一が持って出かけていた。


「さっきメールして住所聞いたら教えてくれたよ。」

「あいつら、怪しい人には家の場所とか無闇に教えんなって言ってるのに…!」

「鷹臣くん俺怪しい人じゃないからね。鷹臣君の先輩だよ?」


玄関先で話し続けるわけにもいかず、高遠さんを連れて近所の公園に移動することにした。外は暑いけれど家の中とたいして変わらないし。大きな木の下、影になっているベンチを選び並んで座る。途中にあった自動販売機で高遠さんはジュースを買ってくれた。


「縁も勝威も実家帰っちゃったしさ。寮に残ってる奴も少ないし、暇だから遊びに来ようかなー………っていうのは嘘でー。」


いつものふざけた感じで高遠さんは話し始めた。

公園で遊んでいる子供は誰もいない。暑いし、うちの瑞貴みたいに家でゲームでもしてるのかな。太陽の位置は真上。地面の熱が履いているサンダルを通しても伝わってくるみたいだった。


「鷹臣くん、勝威となんかあったんでしょ?」

「…特別なにかあったわけじゃないんですけど。俺のせいで変な空気にしちゃったっていうか…。」


勝威さん。たった1週間なのに、もうずっと離れているように感じている。

俺と勝威さんは用事があるとき以外でメールを送りあうようなことはあまりしない。だって会おうと思えばいつでも会えたから。だから実家に帰ってきてからは一度も連絡を取っていなかった。あの夜以降の勝威さんがどんな風だったのか、俺にはわからない。


「あと心なしかみどりちゃんも元気ないんだよね。」
「縁が?」


……縁とは、なにも。少なくとも俺の知る限りでは。


「なんかね、へこんでた。鷹臣くんに嫌われたかもしれないって。あの子は基本誰になんと思われてもどうでもいいっていうスタンスだけど、鷹臣くんのこととなると敏感なんだよ。ちょっとの変化でも気になるのかも。」


俺が無意識のうちに冷たい態度を取っていたんだろうか。それだけはしないように気をつけていたのに。だって縁に対する嫉妬は俺の中で勝手に生まれたもので、縁は何もしていない。


「うっとおしいでしょ。こんなところまで来てわざわざこんな話して。これじゃ鷹臣くんに追い討ちかけてるみたいだし。」

「…そんな、高遠さんは別に…。」

「俺さ。どうしてもやっぱりみどりちゃんが大事で、……ごめんね。」



そんなの気にすることじゃない。当たり前のことだ。それに俺にとっても、縁は大切な存在だ。嫌いになるわけないのに。



「俺ずっと、勝威さんがなんで俺を選んだのかがかわからなくて不安で。それで思い切って聞いてみたら、縁がなついてたからとか言われちゃうし…。

でも結局は自分に自信が無いからそんなこと気にするんですよね。俺の勝手な嫉妬で変な態度をとって嫌われたくなかった。嫌われるくらいなら距離を開けるほうが楽だと思ったんです。」

「まぁ、その気持ちもわからなくもないけどね。」

「高遠さんでもそんな風に思うんですか?」

「好きな人がいるっていうのはある意味怖いことだよ。一人だったらそんなこと考えないし。あとはもう優先順位かな。最終的に何が一番怖いかで考えればいいんじゃない。」


少し長めの髪が汗ばんだ首筋に張り付いている。高遠さんは俺の方は見ずに真っ直ぐ前を向いて、俺は縁がいなくなるのが一番怖い、と呟いた。その表情はいつもと変わらずに笑っている。


この人はきっと、どんな気持ちのときでも笑うことが出来る人だ。


「だから俺は本当のことなんて知らなくてもいいよ。昔2人に何があって、たとえ今どんな風だったとしても。どうにもなんないでしょ。勝威が鷹臣くん好きなのには変わらないと思うよ。」


蝉の鳴き声。ギラギラしたアスファルトの上を走り抜けていく車の音。生温い風に押されて少しだけ揺れているブランコ。

見慣れた風景の中にいるはずなのに、なんだかいつもと違って見える。



ふと、勝威さんに会いたくなった。



本当はずっと会いたかったのに。



優先順位。一番怖いこと。心の中で噛み締める。




「ねぇ一回コンビニとか行かない?やっぱここ超暑い。」

「ああ、そうですね。高遠さん、今日はこれからどうするんですか?」

「うーん特に、何も考えてないよ。」

「なんかわざわざこんな遠くまで来させちゃって…。晩飯食べていきますか。」

「え?いいの?あー…、でもそうなると寮の門限ギリギリになっちゃうか。」

「別にうちに泊まっていってもいいですけど。」

「大丈夫かな、浮気とか疑われないかな。」

「……冗談でもそんな気持ち悪いこと言わないでください。」

「気持ち悪いってことは、ないんじゃないかなぁ…。」



その後は2人で晩御飯の買出しをしてから俺の家へ帰った。

夕方仕事を終えて帰ってきた母さんに高遠さんを紹介すると、「格好良すぎて鷹臣の友達には見えない。」って驚いていたけど、俺が夕飯の仕度をしている間にあっという間に仲良くなっていた。

うちのリビングに弟や母さんと一緒に高遠さんがいるっていうのは、なんだか、ものすごく変な感じだ。



あとで勝威さんに連絡して、寮へ帰る日を聞こう。縁の誤解も解きたい。



勝威さんと、話したいことがたくさんあるんだ。








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