憂心








[   TAKATO Side. ]





「え!?鷹臣くんもう実家帰っちゃったの!?」
「うん、さっきね。用事があるからとは言ってたけどさ。」
「へー…そっかぁー…。」


終業式の後にいつものように晩御飯をご馳走になろうと思って部屋を訪ねると鷹臣くんはもう部屋を出た後だった。

松葉杖だし動くのめんどくさいって言って、縁は今日の終業式はサボリ。あと勝威は特に理由も無く来なかった。ほんとにこの兄弟はなにかと面倒くさがりなんだから。


「どう思う?」
「なにが?」

「なんか不自然じゃない?昨日の夜帰ってきた時点で様子はおかしかったけど。でも鷹臣は母親の話聞いたからって引くような子じゃないよね。」

「そりゃまぁ…、そうだろうね。」


うーんと……不自然は俺のせいかな。俺が余計なこと言って不安を煽っちゃったせいかな。かな、っていうか多分そうだろうな。


「兄貴のせいかな、それとも僕のせいかな。」
「え?」


縁が俯いて呟く。その質問は少し意外だった。


「なんでみどりちゃんのせいなの。」

「わかんないけど、僕らもちょっとぎくしゃくしてたよ。僕も余計なこと言ってちょっと怒らせちゃったりしたし…。」

「……じゃあ、俺たち3人のせいってことで。」

「なにそれ。僕真面目に話してるんだけど。」


そっかー、実家に帰っちゃったのか。いつ帰ってくるんだろう。こういうことはあまり時間をおかずになんとかしたい。これからどうするべきかを考えていると、ふいに縁が俺の腕を掴んだ。額が俺の肩に触れる。


「……ねぇ。僕は鷹臣のこと好きだけど、鷹臣はもしかするとそんなに僕のことを好きじゃないかもしれない。」

「……なしたの。鷹臣くんがみどりちゃんの為に喧嘩したの忘れたの?」

「でも僕はこういう性格だし、気づかない間に何かしてるのかもしれない。」



下を向いていた縁の顔を両手で包んでこちらを向かせる。もしかして泣いているのかと思ったのに、表情だけはいつもと変わらなかった。



「高遠みたいに、僕のことを好きだなんて言う人はあんまりいないよ。外見だけで寄ってくる奴はいても。」

「そんなことないよ。わかりづらいだけでみどりちゃんは優しいよ。」

「……高遠は僕に甘いから。」


抱きしめても頭を撫でても、縁はそれきり何も話さなかった。そんな風に言われてしまうともう何も返せない。

俺がいくら言っても説得力ないんだろうな。だって言うとおりだし。どんな風にされても、俺はきっと縁のこと嫌いにはなれないから。


縁の闇は深い。


「みどりちゃん、俺ちょっと勝威のとこ行って来るね。後で戻ってくるから。」


昨日の夜、鷹臣くんと話し終えて清風の部屋に戻ってきた勝威の様子はいつもと変わらなかった。感情を隠すのが上手いから本当のところはわからない。お節介かなぁとは思うけど、ちょっと顔見に行くくらいならいいよね。

下級生寮を出て勝威の部屋へ向かった。ドアノブに手をかけると鍵が開いていたのでノックもせずに勝手に入ることにする。あまり細かいことは気にしない性格だから大丈夫。


「勝威、いるー?」
「なんだよ、うるせぇな。」


勝威はいつものようにソファに横になっていつものようによくわからない本を読んでいた。俺の方を見ようともしないで答えたけど、こういう口調は通常運転。特に機嫌が悪いわけでもなさそう。


「鷹臣くんが実家帰ったの聞いた?」
「聞いたよ、鷹臣から。」
「あ、そうだよね。ねぇ昨日ちゃんと話せたの。」
「話したよ。」
「鷹臣くんどうだった?」
「…別に、相変わらず。」


相変わらずってなにさ。でもあんまり良い答えではなさそう。これ以上聞いてもまともな返事は返ってこないだろうな。

諦めて早々に玄関へ向かおうとしたそのとき。


「高遠。」


呼びかけに振り返ると、勝威はゆっくりと寝そべっていた身体を起こした。


部屋の中は静まり返っている。勝威の部屋はいつ来ても無音だ。部屋中に並ぶ沢山の本に音が吸い込まれているように。そのせいだろうか、次の言葉を待つ間の時間が妙に長く感じてしまう。

そっちが引き止めたくせに。勝威はしばらく黙り込んでから、真っ直ぐに俺の目を見て口を開いた。



「縁は、俺のこと性的な目で見てると思うか。」



それはあまりにも予想外過ぎる質問だった。


息をするのも忘れそうなほど身体が固まって動けない。そしてその言葉の意味を理解した途端、思い出したように頭に血が上っていく。



「………は?それ俺に聞く?何?馬鹿にしてるの?」



怒りを誤魔化すように半笑いで答えた俺を、勝威は無表情のまま見つめていた。その目を見れば、冗談でもからかいでもないことなんてわかってる。



「……お前ぐらいしか聞ける奴いねぇだろ。」



小さく呟くと勝威はまたソファに横になった。本当に、まったく意味がわからない。普通聞く?俺に。俺だよ?



「知らねぇよ、自分で考えれば。」



吐き捨てるようにそれだけ言って、逃げるように部屋を出た。強めに閉めたドアの音が人気の無い廊下に響く。

心臓痛いし動機がすごい。みどりちゃんの部屋へ向かいながら、これきっと血管開いて1秒ずつ寿命が縮まってるんだろうな、なんて冷静に考えている自分もいる。


なんで俺に聞くの。俺はもう、そういうの考えたくないのに。



一週間後、縁と勝威も実家へ帰って行った。それまでの間俺は縁の部屋へ入り浸り、結局勝威とは一度も会わずに過ごした。


鷹臣くんも戻ってこない。たった1ヶ月の夏休みなんて、きっとあっという間に過ぎるだろう。







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