ともだち
[ TAKATO Side. ]
「高遠さん、何本買う気ですか?」
「うーんと、5本?俺のじゃないよ、5人分。」
保健室から縁を部屋へ送った後、教室へ顔を出すと片付けはあらかた終わっていた。面倒だけどそのまま閉会式も参加して、寮へ戻る途中に清風に誘われた。一人で部屋に帰るよりも、皆で賑やかにしていた方が気が紛れるだろうと思った。
集まったのは清風と同室の1年生とその友達。ゲームで負けた罰で全員分の飲み物を買いに来たときに、玄関ホールで鷹臣くんに会った。
「ちなみに勝威もいるよ。」
誘われたときに一緒いた勝威もそのまま連れて来ていた。清風とは顔見知りだし特に用事もないって言ってたし。
「……そう、なんですね。」
「話す?呼んで来る?」
「いえ、大丈夫です。」
俺としたことが。本当に失敗した。
縁と母親が違うっていう話なんて、わざわざ自分から話すことはなかったとしても聞かれれば答えるくらいには関係性を築けていると思ってたんだけど。俺なんかにも教えてくれたことだし。
「でも鷹臣くん大丈夫?このまま部屋戻って。」
「はい。あんまり遅くなると縁も心配するんで、もう戻りますね。」
そう言って部屋へ向かって歩いて行く背中を見送りながら、鷹臣くんの動揺した態度に縁が何かを察するんじゃないかって、そんなことを考えていた。
鷹臣くん自身のことも心配で、それは勿論なんだけど。そもそも動揺させたのは全部俺のせいなのになぁ。最低だな、俺。
自分の気持ちまで、いらないことを話しすぎた。
今まで口に出したことなんて一度もなかったのに。
悩みを共有しようとしたなんて綺麗なもんじゃないな、これは。なすりつけて軽くなろうとしたんだ。
自分の錘を、鷹臣くんにも無理矢理持たせたんだ。
やばいな、自己嫌悪ばっかりだ。嫌な考えばかりが頭を巡る。
勝威と鷹臣君がくっついたときだって。俺本当に2人のために喜んでたのかな。
「高遠先輩遅いですよ。どこまで買いに行ってたんですか。」
「悪い、ちょっと遠回りしてきちゃった。」
清風の部屋へ戻り、後輩たちの文句を適当にあしらいながら買ってきた飲み物を配る。出てきたときと変わらず後輩たちは床に座り、勝威だけ2人がけのソファーに座っていた。空いている隣にそのまま腰を下ろす。
「勝威、今鷹臣くんと偶然会ったんだけど。」
周りの奴らに聞こえない程度の声で話しかけると、名前に反応して勝威が振り返った。
「あのさ、本っ…当に申し訳ないんだけど。俺すごい余計なこと言っちゃった。」
「……なんだよ。」
「勝威のお母さんのこと、鷹臣くんになら話してるかと思ってて…。」
「話したのか?」
思いがけず勝威が大きな声を出したことで清風たちが振り返る。勝威は他の3人に「なんでもない」って声をかけてからまた俺の方へ向き直った。
「あのな、話そうとしてたところをお前が校内放送で邪魔したんだからな。」
「あー…、うわー…。」
それはもう。最悪の最悪だね。
あ、でもあれを放送部に無理矢理頼んだのは俺じゃなくて純ちゃんだからね。言わないけどさ。
「まぁいいや。鷹臣部屋にいるの。」
「いると思うけど、みどりちゃんもいるよ。」
「外に呼び出すからいい。」
そう言って勝威は立ち上がる。携帯を取り出してメールを打っているようだった。
「待って。俺も行く。」
「はぁ?お前来てどうするんだよ。」
「いや、みどりちゃんのとこ。清風、ごめん俺らみどりちゃんの部屋行くわ。」
清風に声をかけると「はいはい」って右手をヒラヒラさせながら答えた。部屋を出て、2人連れ立って廊下を歩く。
「勝威ほんとごめんね。無駄にかき回しちゃって。」
「いいって、そもそもたいした話じゃねぇし。」
「たいした話じゃないのかは俺もよく知らないけどさぁ。」
俺が知ってるのは母親が違うっていう事実だけだから。どうしてそんなことになったかっていう理由まではわからない。まぁ、薄々想像はつく事柄ではあるけれど。それもあまり良くない方向で。
「縁に聞けば。」
「みどりちゃんに?」
「別に俺が話してもいいけど。鷹臣に話してお前にも話ってって2回も面倒だろ。」
「…ほんとに勝威はめんどくさがりだよね。」
そういう勝威が鷹臣くんのことに関してはすぐ動くんだ。
……縁に対してはどうだろう。
「ねぇ、俺が怪我しそうになったらさぁ、さっきみたいに助けてくれる?」
少し前を歩く背中に声をかけると、勝威は心底気色悪いって顔で振り返った。
「無視して打ち所悪くて死なれても嫌だろ。」
冗談だって、そんなに嫌な顔しないでよ。でも助けてくれるんならいいや。
廊下の分かれ道で勝威は談話室へ向かって歩いて行った。俺は一人で2人の部屋の前に立つ。
さて、縁とはどんな話をしようかな。
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