モノポライズ








[   TAKATO Side. ]




「保健室のもの勝手に触って大丈夫なの。」

「先生いないししょうがないじゃん?包帯とかもらうだけだから。怒られたら謝ればいいよ。」


適当に棚の中を探ると目当ての物はすぐに見つかった。ベッドに腰掛ける縁の左足にひとまず冷感湿布を貼る。


「うーんとね。確か心臓よりも足首の位置を高くするんだよ。」
「運動部でもないのに詳しいね。」
「前に体育で同じような怪我したことあったから。」


仰向けに寝かせた縁の足元に枕を挟んで高さを調節してあげる。

午後4時の保健室は、夕方でも少し蒸し暑い。窓を開けると気持ちのいい風が入り込んできた。


「柱があのままあたってたらさ、どうなってたんだろうね。」
「…うん。」


あのとき。鷹臣くんの声に気がついて振り向いたときにはもう勝威が隣まで来ていた。


「できれば俺が助けたかったな。」
「……なにそれ。どうしたの。」


わかんない。だから何って、自分でもそう思う。縁が無事だったからそれでいいんだ。


ベッド脇に立つ俺の顔を、縁は不思議そうな顔で見つめている。額には薄っすら汗が滲んでいて前髪が少し濡れていた。長い睫が好きだと思う。形の整った上唇も、黒いピアスをつけた小さな耳たぶも。


覆いかぶさって唇を重ねると、縁は俺の背中にゆっくりと腕をまわした。舌を絡めながら下半身へ手を伸ばす。当たり前だけど勃っているわけがない。


「や…、高遠、足痛い…」


手当てしたばかりの左足を庇いながら縁が身をよじった。


「嫌なの?」
「嫌っていうか…。」


痛みからなのか、俺の肩に手をかけて珍しく抵抗する素振りを見せている。普段は何したってこんな反応はしないのに。



「……だって。みどりちゃんは痛いのが好きなんじゃなかったの?」



思いがけず出た、少し苛立った俺の言葉に縁の動きが止まる。
慌てて顔を覗き込むと、綺麗な茶色の瞳が不安げに揺らいでいるのがわかった。


まずい。今のは駄目だ。


「ごめん!!もうやめるね、先生戻ってくるかもしれないし。包帯巻いて部屋帰ろうか。俺送るから。」


必死に取り繕いながら縁から身体を離す。

迂闊だった。言葉には気をつけなければいけないのに。縁に与える言葉には。


この子は俺が言ったことは全部答えようとするんだ。たとえどんなことでも。それは時として少し盲目的な程に。


それが縁にとっての愛情表現であることは充分理解しているし、そうされることで俺自身喜びや興奮を感じているののも事実だ。


だけどそのせいで見えなくなっているものもある。それは既に愛じゃなくて義務なんじゃないかって。



縁はもしかしたら、俺が死ねって言ったら死んじゃうかもしれない。



思い通りにいかなければ苛立って、従われると怖くなる。俺は一体どこまで身勝手なんだろう。




「高遠はクラスの片付けは行かなくていいの。」
「俺準備頑張ったから。そのくらい見逃してもらうよ。」


ふと、歩けない縁を抱き上げようとして躊躇った。さっきまでの光景が頭をかすめる。勝威と同じようにすることを、心のどこかが拒否していた。


「松葉杖ないか探してくるね。」
「いいよそんな大袈裟なの。ただの捻挫だよ。」
「だって歩けないじゃん。片足だけで帰れるの?」
「…それはそうだけど。」


松葉杖は保健室内には見当たらない。職員室で聞けばわかるだろう。縁を置いて俺は一度保健室を出た。


意地が悪いことを言ったかもしれない。素直に抱き上げて帰ればよかったかな。きちんと優しく出来ないのはなんでだろう。


だって縁はなにもしてないのに。ただ俺が勝手に勝威に対して嫉妬心を抱いているだけ。ずっと押しとどめてきた感情を、今だけ抑えられなくなっているだけだ。


そうだ、縁はなにもしてない。何度も何度も言い聞かせる。



潜在意識の中で、この子が誰を一番に想っていたとしても。



職員室で松葉杖を借りて、早足で保健室へと戻る。日が落ち始めて少し薄暗くなった窓際のベッドで縁は大人しく横になっていた。先生はまだ戻ってきていない。俺の姿を見るとゆっくりと身体を起こす。


「松葉杖あったよ。」
「うん、ありがとう。」
「……ねぇ、さっきごめんね。足痛かった?」


そのままぎゅっと抱きしめる。強く強く。


「…そんな、何度も謝られるようなことされてないけど。」


最初に保健室に着いてからの俺の態度、言葉、今こうして抱きしめていることでさえ、いつもと違う行動全部が縁を不安にさせている。痛いぐらいわかっているのに、どうしてまた余計なことをしてしまうんだろう。

もっとうまく振舞いたいのにな。縁のためにも自分のためにも。



「どうしたの、今日。高遠おかしいよ。」

「うん、……ごめんね。」



たとえ縁の一番が自分じゃなかったとしても、一つだけ確かなことがある。この事実だけは揺るがない。絶対に。



「俺はね、なにがあってもずっと縁のことが好きだよ。」



なにがあっても俺はこの子を手放さない。たとえそれが正しい形じゃなかったとしても。







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