あの日の





勝威さんとともに俺の教室へ向かう間、5分間隔で校内アナウンスは続いた。名前を呼ばれるたびに勝威さんの不機嫌度は増していく。

携帯電話に連絡をしても無視されることを見越してのことなんだろうけど、はっきり言ってやり過ぎだ。

繰り返しアナウンスを続ける方だって大変だと思う。高遠さんはなにか放送委員の弱みでも握っているんだろうか。


「あっ、来た!鷹臣くん1号!!早く早く!」


1-B教室前では高遠さんと縁と純さんの3人が待っていた。俺たち2人の姿を見つけると、廊下の向こうから興奮した様子の高遠さんが叫ぶ。

「1号…?ていうか高遠さんアナウンスいい加減止めてくださいよ…って。」


予想もしなかった光景に目を疑う。


「はぁ!?なんでお前らがいるんだよ!!」


縁と高遠さんの横には、うちの小学生の双子の弟、希一と瑞貴が立っていた。


「鷹臣くん真ん中入って!写真撮ろ!」

「興奮しすぎですって、うちの弟怯えてるじゃないですか。なんなのお前ら2人で来たの?こんな遠くまで?」

2人が揃って頷く。高校生と大人に囲まれて若干萎縮していたけど、俺の顔を見て少しだけ安堵の色を浮かべた。

実家からこの学校までは電車で2時間近くかかるのに。学園祭のことなんて何も連絡していなかったので正直驚いていた。

「危ないじゃん、2人だけでなんて…。」

「俺ら来年中学だよ。電車くらい乗れるって。」

瑞貴が答える。

「それにしたって来るなら来るで連絡しろよ。」

「だって、2人でなんて危ないからやめろって言われると思ったから。」

今度は希一が。図星をつかれてちょっと恥ずかしい。だって結構遠いよ?俺が特別過保護ってわけじゃないと思うんだけど。


「うわ…小さい鷹臣やばい…。一個持って帰りたい。」
「縁やめて、うちの弟を生き別れにしないで。」
「やばいよね、シフトキー押しながら縮小しましたって感じ。」

わりと似てるっていうのは自覚しているけどそんなに似ているだろうか。高遠さんも縁も興奮して妙なテンションになっている。



「勝威、あんた私に会わないでやり過ごそうとしてなかった?」


弟たちと話していたせいで気がつかなかったけれど、純さんは待たされたせいか相当不機嫌な顔をして勝威さんを睨みつけていた。


「今空いたんだよ、今。」
「すぐバレる嘘つかないで。」
「別にそういうわけじゃ、」
「"すいませんでした"は?」
「………すいませんでした。」


おお、謝った…!
いつも大人っぽく見える勝威さんのあまり見たことがない表情。8つも離れているんだし、純さんには頭が上がらないのかもしれない。


「まぁいいけど。そろそろ仕事戻らなきゃいけないから早く縁と並んで。わざわざ半休とって来てるんだからね。」


そう言うと純さんは肩にかけていた鞄から黒いポーチを取り出した。中から出てきたのは銀色の小さなデジタルカメラ。仕事を抜けてまで学園祭を見に来ていたのか。そうまでして訪れた目的が記念写真なんだろうか。

純さんの言葉に反応して、弟たちと話していた縁がこちらを振り向く。

「写真なら俺撮りましょうか?」
「私はいいの、それよりあんたも入って。」
「え、でも…。」
「いいから早く。」

促されるまま勝威さんの隣に行く。縁と俺の間に立つ勝威さんは面倒臭そうな表情で、それでも言われたとおり大人しくカメラの方を向いていた。

「純ちゃん、俺も入っていいー?」
「勝手にすれば。高遠は見切れるかもしれないけど。」
「ひどいなー。ちゃんと入るように撮ってよ。」

文句を言いながら高遠さんは縁の後ろに立った。人通りの多い廊下。あらたまって4人並んで写真を撮られるのは少し恥ずかしい。よくよく考えれば縁と勝威さんが校舎内で顔を合わせているのは稀で、さらに高遠さんも加わっているせいか周囲の学生は物珍しそうに俺たちを遠巻きに見ている。

俺がこの中に混ざっていていいんだろうか。周りの視線に「なんであいつが。」って言われているようで居心地が悪い。


はいチーズ、だとか。合図も何も無しに、純さんは無言で何度かシャッターを押した。


「笑ってんの、高遠だけじゃない…。」


撮影した画像を画面上で確認しながら少しだけ微笑む。そして黒いポーチを取り出して、大切そうにカメラを鞄にしまった。


「じゃあ私もう行く。あんたら夏休みには実家に顔出しなさいよ。」
「うん。帰る日決まったら姉さんに連絡するね。」
「どうせ帰るんだからわざわざ今日撮りに来る必要なかっただろ。」


勝威さんが呟くと、純さんは少しだけ目を細めながら「それじゃ意味ない。」と答えた。


「姉さんから写真のデータもらったら鷹臣にも送るね。」
「…うん、ありがと。」


行事や記念日にそこまで執着はないし無理に感傷的になろうとしているわけでもない。

この写真にどんな意味があったのか。今はまだわからない。

それでも縁から写真が届いたら、きっと俺にとっても大事な1枚になると思うんだ。

だって4人で過ごせる学園祭はこれが最初で最後だから。


「もうこのまま弟くんたちも一緒に6人で回っちゃわない?」
「多いだろ6人は。お前と縁は別で動けよ。」
「僕らが双子と4人でまわって兄貴と鷹臣2人でいいんじゃない?」
「いやー、それ一番意味わかんないよね。」
「……いいかもう、6人で。」


過ぎていく思い出を名残惜しいと思えるのなら、1秒でも多く笑っていたい。


叶うだろうか。


叶えばいいのに。






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