姉のようなもの





「ちょっと、みどりちゃん笑い堪え過ぎだって。純ちゃん怒るよ。」
「やめてって全然笑ってないし。高遠だって肩震えてるんだけど。」
「あんたらバレてるから完全に。それ以上笑ったら殺すから。」
「あのー…。ほんとにすみませんでした…。」

有り得ない。似すぎ。高遠さんが言ってた"面白い"ってこれのことだったんだ。姉と弟でこんなに顔が似るものなんだろうか。全然笑わないところまでよく似ている。

あの後、場所を変えて4人で適当な喫茶店の教室に入った。周りの学生も皆チラチラと様子を伺っている。

無理もない。勝威さんにそっくりで、なおかつ美人だということ。元々の高身長に10cm超のヒールのせいで女の人にしてはかなりでかいっていうこと。

そしてこの高圧的な態度に加えて、縁と高遠さんが一緒だっていうことも。

いろんな要素が組み合わさってものすごく目立ちまくっている。おそらくこの学校にこの人をナンパできる学生なんて存在しないだろう。


「鷹臣は悪くないんだよ。兄貴のクラスが女装喫茶なんてやってるから勘違いしちゃったんだよね?」

「えーと、はい…。身長も同じくらいに見えたんで…。」

「純ちゃんやたら大きいもんね!なのにそんなヒール履くし。」


うわ、すっごい睨んでる。俺じゃなくて高遠さんを。それにしても高遠さんは本当に誰に対してもブレずにフレンドリーだ。ある意味尊敬する。

「あんたが縁と同室なの。」
「あっ、はい。守山鷹臣です。」
「縁と一緒で大変じゃない?」
「いえ、全然。そんなことないですよ。」

表情は冷たいけれどもう怒ってはいない。ぶっきらぼうなだけなんだ。

「縁、あんたは相変わらずいろんな男とヤってるの。」
「まぁ、してるね。でもちゃんと決まった相手は高遠なんだよ。」
「勝威は?」
「兄貴ももう前とは違うよ。」
「ふーん。」

なんだこの会話。
こんな開けっぴろげになんでも話すなんて、単純に仲良しってことでいいんだろうか。


「姉さんは?今日は連れてきてないんだね。あの日本語話せない彼氏。」

「え?彼氏さん、外国人の方なんですか?」

「そう、イギリス人。まぁわたしも英語話せないし何言ってるのかはよくわかんないけど。」

お互いどうにかしようって気はないんだな。それでなんとかなってるならいいのか。こうして会話を聞いていると、縁と勝威さんと純さん。性格的な面でものすごく血の繋がりを感じる。

あれ?そういえば……


「なんか、3人の中で勝威さんだけ名前の雰囲気違いますよね。」


それはただなんとなく、本当に何気なく聞いただけだった。

深い意味なんてない。


それなのに俺の何気ない一言のせいで、弾んでいた会話を止めてしまった。

な、なに?なんで?皆の表情につられて固まっていると、縁が少し気まずそうに口を開いた。


「…僕から言ったら駄目だよね?」
「あたしはあんたらの関係性よく知らないから。」
「鷹臣くん、勝威に聞けば教えてくれると思うよ。」
「え?えっと…はい。わかりました。」

どうしようこの雰囲気。俺なんか…まずいこと言ったのかな。妙な空気に耐え切れなくなりそうになったとき、胸ポケットに入れていた携帯が振動した。

勝威さんからだ。今いる場所と、純さんが来ていることをメールで簡潔に伝えるとすぐに返事が返ってくる。

『あいつめんどくさいからバレないようにお前だけ抜けてきて。』って。

大丈夫かな。バレバレのような気もするけれど、駄目元で「洋介に呼ばれた」と告げて俺はその場を後にした。


指定された教室の前に着くと、勝威さんは昨日と同じ格好で立っていた。白いシャツに黒いベスト、接客のときにつけていた黒い前掛けは外している。通り過ぎる外部の女生徒が皆振り返っていくけれど、本人はあまり気にしていないようだ。


だからこそ、視線が合うだけで少し優越感を感じてしまう。2人で並んで歩いていたって恋人同士に見えるわけないんだけれど。

「俺と抜けたってバレてないよな?」
「うーん多分。自信ないけど。」
「お前は衣装とかないんだな。」
「うん。うちはクラスTシャツだけ。そういえば高遠さんは今日制服だったよね。」
「あいつはもう出番ないから。俺は女装しない分2日間やらされてんの。」

やばい。何度見てもドキドキする。やっぱり女装じゃなくてよかった。結果的にどうなるかは大体わかったし。

お腹は空いているけど人混みの中で食べるのは嫌だという勝威さんの希望で、食べる物を買い込み連れ立って屋上へ向かった。

屋上は学園祭開催中閉鎖されているんだけど、勝威さんは先輩から密かに受け継がれている合鍵を持っている。

2人だけの屋上は久しぶりだ。天気は快晴。夏の強い日差しを避けて、建物の影になっている部分を選び並んで座った。校門近くに設置された屋外のステージからバンド演奏の音が聞こえてくる。

「あー…疲れた。もう絶対教室戻らねぇ。」

一番上まで止められた首元のボタンを外しながら勝威さんが溜息をついた。

「お前、純になんか変なことされてねぇよな。」
「え?うん。別になにも。」

俺が勝威さんと純さんを間違えたっていうのは内緒にしておこう。なんとなくまた怒られそうだし。

「いいの?純さんに会わなくて。せっかく来てるのに。」

「縁と高遠が相手してるならいい。どうせ実家に帰ったらいるしな。」

そうか。明日の終業式が終われば夏休みなんだ。うちの学校は地方から来ている学生も多いし、皆実家に帰るんだろうか。

「お前は夏休みどうすんの。」
「全然考えてなかったなぁ。何日かは帰らなきゃいけないかもしれないけど…。」
「ふーん…。」

何気ない会話の最中もずっと先程のことが気になっていた。


勝威さんの名前の話。


高遠さんは「勝威さんに聞いたほうがいい」って言っていたけど、本当に聞いていいものなんだろうか。名前なんて、3人があんな雰囲気にならなければこんなに気にすることもなかったのに。


「勝威さん、あの、なんとなく気になっただけなんだけど。縁と純さんと勝威さんって、名前の感じが勝威さんだけ違うよね。」

「名前?ああ、俺の名前だけ母親がつけたから。」


もしかすると聞かれたくない事柄だったらどうしよう、と意を決して尋ねたのに。勝威さんから返ってきた言葉は予想外にあっけないものだった。

すっごい普通の理由じゃんか。縁たちのあの反応は一体何だったんだろう。


「なんだ、高遠さんが勝威さんに直接聞けっていうから何かと…。」


『 3年C組の野崎勝威くん。至急1-B教室まで来てください。繰り返します……  』


俺の声を遮って校内放送の呼び出し音が流れ、放送委員によるアナウンスが響き渡った。名前を呼ばれた勝威さんがスピーカーの方を向き訝しげな顔をする。


「勝威さん、呼ばれてるけど。」
「つーか1−Bってお前のクラスだろ。これ絶対あいつらだよな。」
「うん。バレてたね一緒にいるの。」
「……無視するか。」
「…多分来るまで流し続けるんじゃないかな。今の時点でもう3回繰り返されてるし。」


あいつらほんとうざい、って呟いて面倒臭そうに勝威さんは立ち上がった。


2人で一緒にいる時間が中断されてしまったのは残念だけど、俺は少しだけわくわくしている。


あの兄弟3人揃って、一体どんな会話をするんだろう。






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