テストを終えて






7月の頭に学期末テストが終わった。

結果は後々発表があるだろうけど、今はとりあえず忘れよう。過ぎてしまったことを悔やんでも仕方ない。

テストが終わった翌日から校内は一斉に学園祭モードに移り変わり、放課後は各クラス遅くまで残って準備を進めていた。

この学校の生徒はテスト前に必死に勉強する奴なんて殆どいない。普段の授業で大体理解していれば慌てる必要なんてないんだ。俺みたいな例外もいるけどさ。

それでもやっぱり、テスト終わりの開放感は気持ちを高揚させる。

2日間あるうち1日目は学内だけ、2日目は家族や友人を呼ぶことが出来る。男子校で同年代の異性と校内で会うことができる唯一の日。学園祭へ向けてみんなのテンションは日を追うごとに高まっていった。


「鷹臣手ぇあいてる?購買に買出し行かない?」
「うん、大丈夫。早いとこ行っちゃお。」


洋介に声をかけられて2人連れ立って教室を出た。いつもは人気のない放課後の廊下は夕方の6時を過ぎてもたくさんの学生で溢れている。

床に散らばった看板や絵の具、工具なんかに注意して歩きながら学生寮の区画にある購買へ向かう。

学園祭が終わればもう夏休みだ。

まだ明るい窓の外を眺め大分日が長くなったな、と思う。制服だっていつの間にか夏服になっていた。

こうやってどんどん季節は過ぎていっちゃうのかな。

「あ、ガムテあった。よかったー。在庫あるだけ買っておこ。」

レジへ並ぶ洋介を購買の入り口で待つ。

今日の晩御飯どうしよう。最近手抜き気味だし。毎日遅いからしょうがないっちゃしょうがないか。冷蔵庫の中何残ってたかな。

ぼんやりと今日の献立を考えていたとき、廊下の向こうから見覚えのある顔が歩いてきた。


……うわ。まじかよ。

それは、あの日以来一度も顔を合わせていなかった濱谷だった。

俺と目が合うと、濱谷は軽くため息をついて心底嫌そうな顔をする。


「なにその気まずそうな顔。ほんとお前は相変わらずだな。だから言ってるじゃん、そういうのがむかつくんだって。」

「そっ…んなこと言われたって気まずいことには変わらないんだからしょうがないだろ。」

「気まずいって何?何に対して気まずいの?俺のこと差し置いてポッと出の自分がさっさと野崎とくっついちゃったことに対して?」

「それは…!」

なんなんだよこいつ、なんかこいつと話してると自分がすごい性格悪い奴なのかもって思えてくる…!!いや言ってることは的外れってわけじゃないんだけど、意地でも素直に受け入れたくないような…

「いい加減認めろよお前は。お前に限らず誰だって多かれ少なかれ他人の幸せ足蹴にしてるんだよ。お前はその都度そうやって罪悪感感じながら他の奴らに頭下げて生きていくつもり?」

そんなことわかってる。わかっていたはずだけど、わかっているつもりになっていただけかもしれない。

「………じゃあもう気にしなければいいんだろ。」
「それはそれでどうかと思うけど。」
「お前結局俺のこと嫌いなだけだろ!?」
「当たり前だろ、もう話しかけてくんじゃねーよバーカ。」

子供か。てか最初に話しかけてきったのそっちだし!

「お前なんか一回も謝ってないくせに。俺は別にもういいけど、縁にだって…。」

「絶対無理。」

「え?」

「あいつにだけは絶対謝らない。」

ものすごく苦々しい顔でそれだけ言い放つと、濱谷は3年生寮へ向かって歩いていった。

洋介は「鷹臣いつの間にあの3年と仲良くなったの?」とか聞いてくるし。どこをどう見たらそう思うんだよ。


苛立ちがおさまらず晩御飯を食べながら今日の話を縁と高遠さんに話すと、縁はさっきのあいつ以上に苦々しい顔をして濱谷のことを話し始めた。

「濱谷も大概変わってるよね。嫌がらせの矛先が机とかロッカーとかさ。まぁ、暴力には訴えないタイプではあるけど。」

「え、もしかして縁も何かされたことあるの?」

「そうだよ。入学したばっかりの頃とか毎日机の上に釘刺されてたりペンキでドロドロだったりしてさぁ。アレ何の意味があるわけ?僕そのとき濱谷のこと机職人て呼んでたからね。」

「なんかちょっとしたアート作品みたいになってたもんね。机職人の。」

「あの、さすがに俺でも同情するんでそのあだ名はやめてあげませんか…。」

もしかして濱谷が縁のこと嫌ってたのって最終的には勝威さんの弟だからってだけじゃないんじゃないかなってちょっと思う。

俺だったら絶対敵に回したくないタイプだ。縁も高遠さんも。

でも確かにアートっていうのはどうかと思うけど、メッセージ性は感じるかもしれない。ものすごくストレートに伝わる悪意っていうか。一種の"手紙"みたいな…。嫌がらせには違いないんだけどさ。


「そういえば今日は勝威は食べに来ないの?」

「なんか一気に読んじゃいたい本があるって言ってましたけど。」

「兄貴って気が向いたときしか夕飯食べないもん。最近はわりと食べてる方だと思うけど。食べるときはものすごい量たべるくせに。」

「みどりちゃんとこの兄弟って3人ともよく食べるよね〜。」


高遠さんの意外な発言に思わず箸が止まる。

……え?

今、さらっと3人って言わなかった?





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