理由






「お前はさ、基本は出来てるんだから。落ち着いて考えれば難しい問題じゃねぇだろ。」

「……はい。」


期末テストまであと1週間。結局なんだんかんだで俺は勝威さんの部屋で毎日勉強を教えてもらっている。

基本はできる。教科書どおりにすれば問題ない。自分でも何が欠けているかはわかっている。応用力。発想力。勉強に限らずいつもそうだった。

模写は得意だけど真っ白な画用紙を渡されると何も浮かばない。そんな感じだ。

だけど俺はそれで充分だった。身の丈以上のものを求めず、求める必要もないと思っていた。

この学校を受けるって、決断するまでは。


「ここ入るときの入試の点数ってどれくらいだったんだよ。お前勉強苦手って言ってもさ、そもそもそれなりに出来なきゃうちの学校なんか入れねぇんだから。」

「えーっと…、入試は、全部で490点くらいかな?」

本当にこの学校に入るときの試験はしんどかった。問題数が死ぬほど多い上に完全回答ばっかりで気が遠くなりそうだった。

「はぁ?!そんな点数取ってたら特進クラスでも上位じゃねーか。」

「特進クラスは辞退した。受験勉強は相当無理したから点数は取れたけど、もともとそんな頭よくないし。特進クラスとか絶対ついていけないもん。普通クラスでさえ厳しいのに。俺ひとまず入れればよかったんだよ。」

「無理してどうにかなるようなレベルの話じゃねぇだろ…。なんでそんなにこの学校来たかったの。」

「ほら、うちの学校って入試で上位5人は入学金と1年目の学費半分免除してもらえるじゃん?うち母子家庭だからそれ結構でかいなーと思って、頑張っちゃった。」


俺はここでひとつ嘘をついた。

勝威さんに話したことに間違いは無い。それも大きな理由のひとつではあったけれど、何かを隠して伝えること、ある意味それも「嘘」といえるだろう。

「……ふーん。」

そして勝威さんはその嘘の存在になんとなく気づいている。多分、だけど。それでも何も言わなかった。

「でも、俺。勉強はしんどいけどこの学校来て良かったよ。」

これは本当にそう思っている。本当に感謝してるんだよ。高遠さんと縁も、洋介も、みんなに出会えてよかった。

なにより勝威さんとこうして同じ時間を過ごせることに。


「学園祭、楽しみだね。」
「いやー…まぁ、そんな楽しいもんでもないけどな。なにかと面倒くせぇし。」
「そうかなー。準備は準備で楽しそうだけど。あ、キッチン使っていい?」


隠していること。胸の内側の今はまだ明かせない部分。曝け出しても曝け出せなくても、会話は続く。俺だって勝威さんの全部を知っているわけじゃない。

だけど話してみよう。いつかは。ただの自己満足になっちゃうかもしれないけど。


心の中でぼんやりと決意しながら、2人分のコーヒーの用意をしにキッチンへ向かった。






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