平常






「洋介、俺勉強するわ。」
「は?なにいきなり。どうしたの。」


昼休みの教室で自分のまぁまぁな点数の小テストを眺めながら呟くと、洋介が怪訝そうな顔をする。

そうだ勉強だ。このままじゃ俺、色惚けで馬鹿になるかもしれない。

勝威さんが見てくれるおかげで絶望的な点数を取ることはなくなったけど、それでも他の人たちより劣っているのは間違いない。

それに勉強に打ち込むことで、後ろ向きなことを考える時間も少なくなるかもしれない。

っていう考えからの宣言だったんだけど。

「そっか。再来週期末テストだもんな。」
「え?」

洋介の予想外の返答に固まる。期末テスト、ね。うん。期末テスト。

「………忘れてた。」
「え!?嘘でしょ!?」
「そっかー…期末テストかぁー…。」

四六時中勝威さんのことを考えなくてもいいように、なんて呑気なこと言ってる場合じゃなかった。すごい寒いな俺。思わず遠い目をしていると洋介が心配そうな顔をする。

「まぁ鷹臣最近いろいろ大変だったしな。でもいっつもみたいに勝威さんに教えてもらえるんでしょ?」

「でもテストだっていうのは勝威さんも同じだし。面倒見てもらってばっかりじゃ悪いよ。」

「いいんじゃないの、付き合ってるんだから。」


あの日。俺と濱谷が取っ組み合いの喧嘩をした次の日に、洋介には一通り全部打ち明けた。

勝威さんに対する気持ちを話すっていうことは自分が"男が好きだ"っていうのを告白するっていうことだ。そういうので差別するような性格じゃないっていうのは充分わかっているけど、それでもやっぱり緊張はした。

洋介は少しだけ驚いた顔をしていたけど、その後すぐに「薄々気づいてたかも。」と言った。

元々同室の2年生から勝威さんの話は聞いていたそうだ。

"悪い意味で奔放な人だ"っていうようなことを。

だから洋介の勝威さんに対する印象はあまり良いものではなかった。まぁそれに関しては単なる噂じゃなく事実であったし。

「俺は最初、鷹臣は完全にとばっちりで嫌がらせを受けてるんだと思ってたんだよね。野崎先輩たちと関わってるからってだけで。とばっちりっていうか、八つ当たりだったんだけどさ。

でも俺が鷹臣への嫌がらせの話をしたときに勝威さんがすぐ教室を飛び出して行ったのを見て、なんとなくだけど、ああ"そう"なのかなって思った。」

そう言って洋介は笑った。

あれからもう2週間近くたつけれど、打ち明けた後に俺に対する態度が変わることはなかった。

「期末テストさえ終わらせちゃえば学園祭で、その後すぐ夏休みじゃん。なんとかなるって。」
「そっか学園祭かぁ。中学のときは秋にやってたけどな。」
「寒い地域はわりとこの時期にやるらしいよ。」
「とりあえず俺は勉強だなー…。がんばろ。」


あ、でも。今日は勝威さんの部屋に行く約束しちゃってるから明日から頑張ろ。

楽しいことが待っているような予感はしているけれど、2週間後のテストへ向けてしばらくは机に向かう毎日が続きそうだ。






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