朝のこと






縁と高遠さんにどんな風に昨日のことを話そうかなって、考えながら自室に帰る。


たくさん心配かけたしきちんと報告しないとっていう気持ちはもちろんあるんだけど、あの人たち話しにくいところまで平気で踏み込んでくるからなぁ。普通の人が躊躇するラインを軽々飛び越えて来るんだよ。


昨日の、あのタイミングで勝威さんの部屋へ泊まったってことでもう何があったかはバレている気がする。どうにかしてニュアンスだけで伝えることはできないだろうか。


自室のドアを開けてすぐ玄関に置いてある高遠さんの靴が目に入って、ああ、やっぱり昨日泊まったんだなと思う。


おそるおそるリビングへ入ると、縁が部屋着姿のままタオルを抱えてバスルームに入ろうとしているところだった。


「……ただいま。」
「あ、鷹臣…!」


声をかけると俺の方を振り向いて立ち止まり、何か言葉を探しているようだ。なんだろ。何を言われるんだろう。

「えーっと…………ちゃんと最後までできた?」


ええ、最初に聞くのそれ!?


「高遠!鷹臣帰ってきたよ。」
「あ、ほんとだ鷹臣くんおかえり〜。」
「とりあえず僕シャワー入ってくるね。」

ベッドから起きだした高遠さんと入れ違いに縁はバスルームへ入っていった。

「鷹臣くん、腰とかいろいろ大丈夫?」
「………すいません、その話ほんと勘弁してもらえませんか…。」
「鷹臣くんは照れ屋だからなー。いーよ。そのへんのことは今度勝威に聞くから。」

それはそれですっごい嫌だ。ていうかわざわざ聞く必要なくない?

「あの、昨日はいろいろありがとうございました。」

何を考えてるのかいまいち掴みきれていないけど、高遠さんから言われた言葉に背中を押されたのは確かだった。厳しい言葉の中にたくさん優しさがあった。

本当に感謝してる。縁にも、高遠さんにも。

「俺は別に何もしてないけどね。まぁ、てことは、お礼を言ってもらえるような結果になったってことでいいんだよね。」

俺が頷くのを見て、高遠さんは満足そうに笑う。

「まぁ俺は鷹臣くんが嫌がらせ受けてたってこと以外は大体全部知ってたんだけどね。」

「…は?!」

「鷹臣くんが勝威のこと好きっぽいのとか、勝威と鷹臣くんがこそこそ2人で会ってるみたいな感じとか、勝威がなんか鷹臣くんのために動いてるなーってこととかね!」

「勝威さんに聞いたわけじゃなく…?」

「うん。なんとなくだけど。あ、不確定なことだったからみどりちゃんには何も話してないよ。」


ほんとにこの人のことはよくわからない。きっと、この先もずっと。


「でもよかった、安心した。みどりちゃんだって。前はあんな感じだったけど、今となっては喜んでるはずだし。大好きなお兄ちゃんの相手が鷹臣くんみたいな子で。」

「……大好き?」

「みどりちゃんはああ見えて重度のブラコンだからねー。自覚ないのがまた救いようないけど。」


顔を合わすたびにあんなに不機嫌そうになるし、口を開けば悪口ばっかりだし。嫌いとまではいかないと思っていたけど、でも、まぁ。


「言われてみれば…わからなくもないかもしれないです。」


なんだか妙に納得してしまった。


「嫌いだったらあえて同じ学校に来ようなんて思わないよね。」


そう言った高遠さんの表情がなんだかいつもと違う気がする。感じたのは一瞬で、またすぐにいつもの笑顔に戻っていたけれど。


「俺も登校する前に一回部屋戻るね。じゃあまた放課後。」


高遠さんが出て行った後、しばらくして縁もシャワーから上がってきた。髪をバスタオルで拭きながら「腰とか大丈夫?」って聞いてくる。

……なんでこの人たち同じこと聞くんだよ。


「兄貴とはうまくいったの。」
「……うん。なんか、いろいろありがとう。」
「そっか。」


そして縁は俺の方へ近づき正面から身体を寄せ、耳元で小さく「よかったね。」って言った。

縁が、喜んでくれてよかった。


「そういえば縁、ブライアンてわかる?」
「ブライアン?ああ、兄貴が小さい頃に飼ってた犬のこと?」
「うん。どんな犬?」
「柴犬みたいな犬だったと思うけど。」


柴犬かぁ。ていうか柴犬にブライアン?変わったセンスだな。

あれ……?なんか違和感を感じる。縁だって同じ家に住んでたんだから"勝威さんが飼ってた犬"って限定しなくていいのに。犬、嫌いなのかな?


「朝ごはん作ったら食べる?」
「食べる食べる。なんでもいいよ、鷹臣の作るのなら。」


ここ最近いろんなことがあって大変だったけど、しばらくは落ち着けるといいな。

好きな人たちと過ごせる平穏な時間。高校生活は長いようで短いから。


降り注ぐ太陽の日差しは増して、春から夏への変化を感じている。


季節の向こうには、今まで以上の日々が待っているのかもしれない。





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