いやがらせ
それは、ある日突然始まった。
「なんだよこれ!誰だよこんなことした奴!!」
洋介が怒ってくれたおかげで、俺自身は意外と冷静でいられた。
朝、登校してみると俺の机はなんていうか言葉に出すのは躊躇するほどの卑猥な暴言の書き殴りと、あとよくわかんないベタベタした糊のようなものの上に画鋲をばら撒かれて、それもうひどい有様だった。
まぁ、せっかくこんなにしてくれたところ悪いけど。机は余ってるのと交換すれば済む話だから別にいいんだ。
問題は誰がこんなことをしたかだ。
高遠さんから釘を刺されていたことを思い出す。縁や勝威さんと関わることをよく思わない奴らがいる。
縁と学校内ではあまり話したことはない。部屋が同室なのは不可抗力だからそれを逆恨みされたらどうしようもない。
勝威さんは。2人でいるところを誰かに見られていたとしたら。
「洋介、もういいよ。俺は気にしないから。」
「でも…!」
「いいんだ。ありがとう。」
たまたま席が近かっただけで仲良くなったけど、洋介が友達でよかった。
俺が嫌がらせを受けるだけならいい。話が広まって縁たちに知れたら、…なんとなくよくないことが起きそうな気がする。自惚れかもしれないけど結構大事にされているというのは自覚している。あの2人に、余計な心配をかけたくなかった。
初日に机の被害を受けた後、律儀に嫌がらせは毎日欠かさず続いた。机が同じように被害を受けることもあれば、ロッカーの中がペンキでぐちゃぐちゃになっていることもある。
放っておいてもいいんだけど、体操着が1着ダメになったり上履きが見当たらなかったりすると精神面よりも金銭的なダメージが響いてくる。それに書かれている言葉が「死ね」とか「殺す」とか。どんどん物騒な言葉へエスカレートしていることも気になっていった。
「嫌がらせの犯人さ、3年の奴らしい。見かけた奴がいるって。」
何かされるたび洋介はすごく怒ってくれる。俺が他人事のようにやり過ごしている間、知らない間に犯人探しをしてくれていた。その優しさにちょっと胸が熱くなった。
「みどり先輩じゃなくて、勝威先輩の方のファンみたいだけど。」
「そっか。洋介、なんかいろいろありがとね。」
「どうするんだよこれから。相手は先輩かもしれないけど、さすがにこんなの毎日続いたら腹立つじゃん。」
「まぁ、ね。」
本当にどうしよう。このまま放置していたらいつか縁や高遠さんに知られてしまうかもしれない。
勝威さんは。
勝威さんはもしこのことを知ったらどんな反応をするだろう。
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